第10話 フレド、ルルー


 ────終わった、のか?

 何だ、最後どうなったんだ?速すぎて見えなかったぞ……!?

 と、とりあえず、ジールが立ってる、って事はジールが勝ったんだな?


 気付くとナミが二人のそばに居た。

 ジールはまだ動かない……。

「お父さん!」

 ルルーが駆け寄って行った。ジールが剣を下ろした。

 ホッと息を吐く。オレも近づいた。


 黙って話を聞いていると……

 どうやら、サミエルが盗賊の親玉、ってのはジールの勘違いらしい。


 ──このご時世、食い詰めた冒険者が流れて来て、悪事を働く事が多い。村で自警団を作ったが間に合わない。村長はこの辺りで一番強いサミエルに泣きついた──ヒマだったサミエルは安請け合いしたら、いつの間にか自警団の団長にされていた……。

 サミエルはいつも通りプラプラしながら、見かけない顔があれば足止めし、何をしに来たのかを聞き出し、怪しければ脅しておく……。

 そんな話だった。


「通行料は?」

「自警団の維持費だよ。十ゴールド」

「十……」

「村の入り口で一人百って言われたぞ」

「ああ、またか……。ボク達の目を盗んで働くゴロツキが、まだまだ居るんだよね」

「お前の名前を出したら、素直に引き下がった」

「だからぁ、脅してるんだよ、ゴロツキ共を」

 ……ジール。

 ナミも軽くジールを睨んでる。笑いを含みながら。

 ジールは黙ってその場を離れた。……ククク、バツが悪いんだろうな。


「あ、あの。この間は、ごめんなさい。お父さんの、知り合いだって知らなくて……」

 ルルーが頭をさげた。

「君は……マリアの、子だね」

「ルルーです」

「ルー!そんな奴と喋るな」

 ルルーはジールとサミエルを見比べてから、父親の方に行った。

「チッ……けち」

 サミエルがルルーを目で追っている。その表情は、哀しげであり、寂しげであり、だが懐かしむような……。

 不器用な男なんだろう。

 長年愛してた女を仲間に取られ、想いも伝えられないまま……亡くしてしまった。辛かったろうなぁ。同じ男としては、同情の余地ありまくりだ。


「さぁて、ボクはもう行くよ」

 サミエルが立ち上がった。

「ねぇサミエル、私達と一緒に来ない?」

 チラリとジールを見るが、何も言わない。

「遠慮しとくよ〜、またね、ナミ」

 サミエルは行ってしまった。

「またな!」

 オレは後ろ姿に声をかけた。


「ジール、全く衰えてないのね!びっくりだわ!」

「……鍛練を怠ったことはない」

 ──ルーを守る為に──オレには続きが聞こえた。

 ……オレも、家族を守る為なら何だってする。ましてジールにとってのルルーは……愛した女の忘れ形見。男手ひとつで育てた愛娘だ。この前ジールは、ルルーに手を上げた事で、本気で落ち込んでいたっけ。子を持つ親同士、わかるぞ。

 ──それにしても、凄い戦いだった。

 コイツらのパーティーが最強だったと言うのも、ドラゴン級を数えきれないほど倒したと言うのも、大袈裟じゃなかったんだな。

 ──オレは、モンスターハンターだった。

 オレのパーティーも、そこそこの実力はあった。一度、ドラゴン討伐の依頼を複数パーティーで受けた事がある。その時は三パーティー、十五人で挑んで……惨敗だった。ほうほうの体で逃げ帰った……若き日の苦い思い出だ。

 ドラゴンを倒せれば、その皮、角、牙、爪……全てが金になる。しかも極上魔石が手に入るから、十五人で分けても暫くは優雅に暮らせる。

 それを、コイツらはたった四人で……。何匹も……。

 はぁ、途方もなくて想像がつかねえ!

「オーケー、そろそろ行きましょ!」

 まあ、いい。

 金がなくて苦労はしたが、今、オレとオレの家族とオレの仲間は、生きてる。これからきっと良くなる。そう予感がする──。


   ※  ※  ※  ※  ※ 


 ──お父さんと同じくらい強い人、初めて見た。

 もしかしたら、お父さんが負けちゃうんじゃないか、って思ったら、怖くて怖くて、気づいたら魔力を集中させてた。ナミさんが止めてくれなかったら……。

 ううん、私は魔法を放てなかったと思う。だって二人の動きが速すぎて、どこに撃っていいか分からなかったもの。

 でもやっぱりお父さんが勝った。

 やっぱりお父さんが一番強い!

 お父さんが一番強くて、カッコいい!

 ……ヨハンお兄ちゃんも、もう少し強かったらいいのに。

 早く、村に着かないかな。

 村に着いたら、ナミさんにワープで街に連れてって貰おう。……わがままかな?

 でも、お兄ちゃんが一人で心配だし!


「ナミさん」

「ナミでいいわよ。なぁに?」

「私にも、補助魔法……と転移魔法、教えて貰えますか?」

「もちろん。いいわよ。ルルー、魔法は使えるのね?」

「はい。村のお婆ちゃんに、教えて貰ったの」

「そっか。マリアの娘だもの。素質はありそう」

「あの、お母さんて……あ、なんでもない、です」

 やめよう。お父さんに聞こえるかもしれない。……お父さん、お母さんの事を聞くと悲しそうだから。そのうち、お父さんの居ないところで聞こう。

「……ルルー、私、あなたが小さい頃、あなたのオシメを替えたりしたのよ〜」

「え!?」

「ふふ、だからね、ルルーのお母さんにはなれないけど……お姉さんみたいに思ってくれたら、嬉しいわ」

「うん!ありがとう……ナミ!」

 ナミさん……ナミは、キレイだし、凄い魔法を使えるし、お父さんの次にカッコいい!


 やっと村に着くと、みんなが出迎えてくれて、大人達はナミさんを囲んで酒盛りを始めた。

 大人ってほんと、お酒が好きね。

 ──私も好きになれるかな?

 ううん、いいわ。ヨハンお兄ちゃんも、好きじゃないみたいだし。

 今日は魔法陣は作らないみたい。明日、作るところを見せて貰おう。そして私が一番乗りして、お兄ちゃんを驚かせよう!


 ナミが魔法陣 (ナミはワープゲートって呼んだ) を作るところ (ナミはマーキングって言う) は見せて貰えたけど、ナミはそれから忙しそうで……。

 その日は言いだせなかった。

 その後も、ナミの回りにいつも誰か居るから、なかなかチャンスがなくて……。

 一度、お父さんが居る時にお願いしたら、「ルー、遊びに行ってるんじゃないんだぞ」と言われちゃった。

 はぁ。いつ会いに行けるのかなぁ?


 ……お兄ちゃん、どうしてるかな。








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