第6話 役に立つということ


「よし、行くとするか。今日中に抜けられるはずだ。迷うことはないだろう」


 ──うう、洞窟の中ってヒンヤリ、ジメジメだな。暗いし。

 全員で松明を持って進む。

 洞窟はあちこちに枝分かれしているが、ジールは迷うことなくズンズン進む。僕は歩きながら、たまにルルーに回復魔法をかけた。

 ルルーは無口になっている。……まだ拗ねてる?

 ──しばらく行くと広く開けた場所に出た。

「ここで休憩しよう。ちょうど半分まで来たぞ」

 僕はキョロキョロして、手頃な岩を探した。あった!いい具合に平らだ。

「……ルルー、この石、炎魔法で熱くしてくれる?」

「……? うん」

 ルルーが熱した石の上に魚の干物を置く。ジューッ。──いい匂いがしてくる。

「ここじゃ燃やすものがないからね。炎魔法じゃないと……」

「なるほど、考えたな」

「もう焼けたかな……はい、ルルー」

「……。美味しい」

 よし。ちょっとご機嫌直ったかな?

 ──と安心したのも束の間

「……誰か来る」

 フレドが僕達が来たのとは逆の方向を見て言った。


「いい匂いがしてるね〜ぇ」

 ……なんだか軽そうな口調の奴。その後ろに武器を持ったのが二人。

 ジールとフレドはすでに剣に手をかけて立ち上がっていた。


「……食べます?」

 わざとお道化どけて言ってみる。

「わぁ!ありがとう。……でも、ソレだけじゃ足りないカナ? ──まだ、仲間が居るんでね」

(……ルルー、下がってろ)

 小声で言う。

「何の用だ?」 ジールが一歩、前へ出る。

「それはこっちのセリフ。ここはボク達の縄張りなんだよ?」

 軽そうな奴も前へ。顔は暗くて見えない。

「……そんな話は初耳だ」

 ジールが剣を抜く。同時にフレドも構える。

 軽そうな奴は立ち止まって、大げさに手をあげた。

「おっと、ボク達は別に、り合いたいワケじゃないよ」

 ──だが、後ろの二人は隙がない。

「ただココを通るなら、通行料を払って貰わないと」

「──いくらだ」


 その時──

 ルルーが突然 「──炎ッ!!!」

 僕の前へ出て、炎魔法を放った。

「ルー!下がれ!!」

 ジールが叫ぶのと同時に、僕はルルーの首根っこを付かんで思い切り後ろに放り投げた。

 軽そうな奴は軽く首を傾げただけで炎をかわし、飛び出そうとした後ろの二人を片手で制した。


「おいおい……躾のなってねぇガキだなぁ?」

 さっきまでと声音が違う……。殺気が含まれている。

「決ーめた。そのガキ、置いてって貰おうか。変態の金持ちに高く売れそうだ……ちゃーんと躾てからね」

 後ろの二人の顔がニヤリと歪んだ気がした。

 僕はカッと頭に血がのぼった……が。


「……止めておけ、サミエル」

 ……!?

「ん〜? ボクを知ってるのカナ?

 ────おっと……お前、ジールか」

「死にたくないだろう」

「……ふ〜ん。へ〜、帰って来たんだ?」

「……」

「まぁいいや。どうやら分が悪いみたいだね〜、引き上げるよ」

 背を向けて来た道を戻っていく。

 後ろの二人は不満そうな顔をしたが、サミエルって奴に付いて行った。


 ──はあ〜、緊張した!

「ジール、知り合い?やけにアッサリ帰って──」

 ジールは話し掛ける僕を無視して、僕の脇を後ろへ通り過ぎた。

 そして、尻もちをついたままのルルーの前にしゃがむと ──パチン!──ルルーの頬を叩いた。


 ルルーは目を真ん丸くしている。

「……何故、前に出た」

「……ッ」

「何故、戦闘になっていないのに魔法を撃った」

「だっ、だって……」

「仲間を危険に晒したことを分かってるのか?」

「!?」

 ────ジールの言っている事は正しい。相手は「殺り合う気はない」と言った。戦闘にならないなら、それに越した事はない。ルルーがした事は先走った、勝手な「宣戦布告」だ。

 加えて、体力のない者が前に出るなんてあり得ない。──だから思わず、放り投げてしまったんだけども。

「言ったはずだ。勝手な行動は絶対にするな、と。そうでなければ連れては行けないと」

「……う、うぐっ……」

 ルルーが泣き出した。うう、庇ってあげたいけど……。

「まぁまあ、村長、説教は後だ。早いとこ、ここを出よう」

 膠着しそうな雰囲気をフレドが断ち切ってくれた。


「ルルー、さっきは投げちゃってゴメン」

 僕は前を歩くルルーに声をかけた。

「……」

 うん。怒ってるよね。振り出しに戻る、だ。黙って回復しとく。

「村長、さっきの奴は何だ?……だいぶヤバそうな奴だったな」

「……サミエル。そうだ、あいつは、かなりヤバい奴だ。なるべく関わらない方がいい」

「……何か因縁がありそうだな」

「……まあな」


 暗くジメジメした洞窟を、さらに重苦しい空気で満たした僕達は数時間後、洞窟を抜けた。


 しばらく歩き、夕方、村に着いた。

 村の前には南北に街道が伸び、この街道を南方面に行けば街に着くようだ。

 村の入り口に、見るからにガラの悪いのが居る。

「村に入りたいなら……一人百ゴールドだ」

 おい、入場料取るのか!?しかも高いな! ──ジールが落ち着いて

「……サミエルから通行許可を得てるんだが」

 ……そんなのあった?

「!──チッ」

 ゴロツキは行ってしまった。何だったんだ。

「ハッタリだ。おそらくこの村も含めて、この辺一帯をサミエルが仕切っているんだろう。気にするな、行こう」

 村の宿屋で部屋をとった。

 一階が食堂兼酒場で、二階に宿泊する部屋がある、一般的な作りだ。

 ルルーは一人で先に部屋へ行ってしまった。

 ジールがため息をつく。

「ま、酒でも飲むか」

 フレドがジールの肩に手を置いて笑いかけた。

「じゃあ僕も部屋に行くよ」

「……悪いな、ヨハン」


 部屋に入ると、ルルーは布団を頭までかぶって泣いていた。

 ──ジールに手を上げられた事がよほどショックだったんだろうな。

「ルルー。……投げたこと、ゴメン。慌てたからつい……。

 ──ルルー、皆、役割が、あるんだ。ジールは前に出て戦う。力も、体力も高いからだ。フレドはジールの動きを見て動く。僕は、なるべく後方で敵の攻撃を避ける」

「……」

「僕の役割は回復だから、後方で全体を見つつ、必要な時すぐ動けるように、かつ前衛の邪魔にならないようにしてる。……ルルー、魔法は、強力だ。イザと言う時に戦いを左右する。だから、戦局を冷静に見ながら、その局面まで体力を削られない様にしなきゃいけない」

「……お父さん、グスッ、た、叩いた……わ」

「うん。子供が危ない事をしたら、親は怒るだろう?……あっ、ルルーがまだ子供だって意味じゃないよ。むしろ、大人と同じ……パーティーの一員として責任があると考えたから、強く怒ったんだ」

「……」

「子供って意味ではさ、ルルーはずっと、ジールの子供だろ。大人になったって、お婆さんになったって」

「……お父さん、まだ、怒ってる?」

「怒ってないよ。でも、ちゃんと謝った方がいい。フレドにも」

「うん。……お兄ちゃん、ゴメンなさい」

「ああ!さ、顔を洗って来なよ。食事に行こう」

 ルルーは恥ずかしそうに布団から出て来た。

 やっぱりルルーは素直で可愛い。まだ子供だ。


 ……ちなみに、役割云々の話は、丸ごとジールの受け売りだ。









































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