第4話 仲間探し
-・*・- オリ視点
「ってことで街に来たぞ!」
ふふん、なんて効果音が聞こえてきそうな顔で宣言する幼馴染を横目で見てから小声で突っ込む。
「田舎者感満載だね」
小声、だったはずなのだが、彼はしっかりとその耳で聞き取ったようで不満げな目を向けてくる。
「なんか言ったかオリ」
「私はそこにいる街の方々の心の声を代弁しただけだよ、リム」
実際、含み笑いでこっちを見てひそひそと話している奥様方がいたので視線でそれを示しながら答えると、そっちを見たリムーーリアムの街での呼び名だーーが、うぐっと言葉を詰まらせてからスススッとこっちに寄ってきた。
「......じゃあ、行くか」
ぼそぼそっと呟いた彼に苦笑を返し頷く。
「で、どこに行くつもりなの?」
途端、キラッと目を輝かせてリムが笑う。
「酒場だ!」
-・*・-
「ご注文は何になさいますか?」
何にするか相談しようとリアムを見ると、リアムは初めて来た酒場というものに興奮が抑えきれないらしくそわそわとあっちを見たりこっちを見たりしていて、全くこっちの状況に気づいていないようだった。
諦めてメニューを眺め、適当に注文することにする。
「......果実水を2つで」
「了解致しました~しばらくお待ちください!」
笑顔が眩しい従業員の彼女を見送ってからリアムの方に向き直り、口を開いた。
「で、リムは何のためにここに来たわけ?」
いつもよりやや大きな声で言うとリアムは流石に気がついたようで、やっとこっちに視線を戻した。
「もちろん、民間の協力者を見つけるためだな」
「協力者って、こんなところで見つけるの?」
王子に、国に関わる協力者をこんなところで見つけてしまって良いはずがない。
(流石にそれくらいは、リアムもわかっているはずだけど)
「ああ、前にデューが酒場で情報を仕入れているって言っていたのを聞いたからな。協力者にちょうどいい人物なんかの情報も入るんじゃないか、と思ったんだ」
「へえ、なるほど。確かに情報を手に入れるならここだろうね。まぁ、聞きたい情報がそんな簡単に手に入るかは謎だけどね......」
私のそんな危惧を聞いたリアムが何故かにやっとした。
「それまではここを楽しむしかないな! お、来たぞ!」
さっきの従業員さんがグラスを机におき、更に、こちらサービスになります! と言って小鉢に盛られたスティック野菜を並べてから一礼して去っていった。
その一連を見守ってからリアムがグラスを掲げた。
「よし、乾杯しようかオリ」
「なるほど初めからお酒が目当てか」
「......乾杯だオリ!」
「乾杯」
全くリアムほど感情を隠すのが下手な人もいないと思う。というか今飲んでるのは果実水であってお酒ではないのだけど、それでもリアムは、これが酒の味かあ、なんて言って楽しそうにしていて、その純粋さはむしろずっと無くしてほしくないとも感じるが。
そしてその後しばらくお酒、もとい果実水を楽しんでいたリアムが急に真剣な顔になったのは、近くに座ってきた5人ほどのグループが話し始めたときだった。確か1人の男が、お前たちは次の仕事は見つかったか? なんて他の人たちに尋ねた瞬間だっただろう。
話からして恐らく地方の憲兵団か何か上がりだろう彼らの話に耳を傾けていたかと思ったら、リアムは急に立ち上がって男らの横まで歩いて行ったので、慌てて後を追う。
「あなた方が憲兵団上がりだとお見受けした上でひとつお願いをしたい!」
そうしていきなり叫んだリアムに訝しげな目を向けたのは、男たちだけでなくもちろん私もだった。
いきなり何をほざいてるんだこの
「......仕事の依頼か?」
だが流石に仕事を受けるのに慣れている様子の男らは落ち着いた返事を返した。
「あぁ、俺たちを助けて欲しいんだ!」
「内容はなんだ?」
「俺たちの護衛をしてほしい! 村はジャロ渓谷の先にあるんだが、仲間のキャラバンと逸れてしまって俺たち2人じゃ帰れないんだ」
(おや、どうやら私もその村の仲間らしいね)
まあ、リアムの狙いは何となく分かったので、リアムの横に進み出て私も頭を下げる。
「お願いします。このままじゃいつ帰れるのか......」
「まあ落ち着け。内容は分かった。だが、俺たちもいくら職探し中とはいえ、この街なら食い繋ぐ分の職ならすぐ見つかる。大体、ジャロ渓谷は最近盗賊が出ると聞いたしなぁ......報酬はいくらだ?」
「ーー1万出せるかどうかだ」
「は?!」
リアムの提示した金額はこの街で一日頑張れば稼げる額だ。盗賊に襲われる危険性がある数日間の護衛任務にはとても足りない。
案の定、その額を聞いた男たちは顔を見合わせてはぁ、と溜息をついた。
「すまんが、その額じゃ誰もついてこねぇぞ。諦めて、お前らのキャラバンがまたここに来るのを待ったほうがいい」
「そんな!」
「すまねぇな、ここの代金くらいなら払っとくからよ、達者でな」
そう言われ、ガクッとうなだれたリアムに続いて私も店を出た。
「で、失敗した訳だけど。危険な任務でも参加してくれるお人好しを見つけたかったっていうのは分かったけど、流石に報酬は少なすぎたんじゃない?」
「......いや、どうやら1人釣れたぞ」
そう答えたリアムの視線の先にはさっきの男らのうちの1人、フードの男がこっちに歩いてきていた。
「君たち、さっきの護衛は俺が預かろう。なんなら報酬もくれなくていい」
(え、報酬なし?)
その男の言葉に驚き、流石にそれは怪しいのではないかと私はリアムを止めようとしたのだが、その隙を与えずにリアムはすぐに答えてしまった。
「本当か! ぜひ頼む!」
そう答えるリアムの顔には特に驚きの感情は見受けられない。まさか、こうなることを予期していたのだろうか。
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