恋と果実

カラスヤマ

第1話【恋の果てに】

この学校に転校してきて、良かったことが二つある。






一つは、親友と呼べる友達が出来たこと。




もう一つは、彼女に出会えたこと。








「あのさ……今日、告白しようと思うんだ」






「へぇーー、告白? 頭も顔も悪いお前が?」






「………うん。頭も顔も悪い僕がだよ」






「誰に告白するん?」




「それは」




「あっ!! 分かった。名前忘れたけど、この前転校してきた巨乳の」






「違うよ。三年のさ……。南先輩」






「はぁ? みなみ? バカッッ!! お前、あの人は、やめとけって。絶対!」








告白することを友達に話したら、猛反対された。悪友の顔は、いつもと違い真剣そのもので、本気で僕を止めようとしているのが分かった。








「おい! 待てよ。真中」






友達の忠告を無視し、僕は教室を飛び出した。


この想いを伝えないと一生後悔する。それだけは、バカな僕にも分かる。




南先輩の行動パターンを完全に把握していた僕は、先輩が夕方のこの時間。誰もいない(入ってはいけない)屋上にいることを知っていた。






ギィィィ…………






屋上に繋がる扉。その鉄扉を静かに閉め、先輩にゆっくり近付く。








「あの………」








先輩は、屋上のフェンスに寄りかかって、山に沈む夕焼けを見ていた。








「誰? あなた」




「あっ、二年の真中です」




「私に何か用?」




「あっ、えっ……と」




「ないなら出てって。一人にして」




「……………」






この場を去ろうとした僕の足が、【後悔】【腰ぬけ】と書かれた冷たい鉄扉の前で止まった。








「好きなんです。先輩が。だから……。だから、僕と付き合ってください」








「……………」








捨て台詞のような告白。完全に失敗したと落ち込む。








「いいよ」






「!?」








聞き間違いかと思ったが、そうではなかった。その日、僕に初めての彼女が出来た。人生最良の日。










次の日、笑いを堪えながら、友達の佐竹に話した。






「正式に先輩と付き合うことになったよ」






「はぁ~、あれだけ止めとけって言ったのに……。お前は、転校してきたから知らないだろうけど、あの先輩と付き合うと皆不幸になるんだよ。結構、有名な話だぜ? ほんっと、お前ってバカだな………」










一ヶ月もたたないうちに僕は、確信した。あの時の佐竹の言葉が、真実だったことを。


先輩と付き合い始めると頻繁に怪我をするようになった。ほぼ毎日、命の危険を感じる事故にも遭遇する。






一番怖かったのは、他の人には見えない黒い煙のようなものが見え、例えば足にその煙がつくと必ず後で足を怪我した。








でもーーーー








【 僕が先輩との関係に限界を感じたのは、決して自分が不幸になったからではない 】










それは違うと断言できる。僕だけなら、いい。








僕だけなら、まだ我慢出来た。










親友が、学校に来なくなった。あの元気だけが取り柄の佐竹が、入院した。後日、見舞いに行き、狭い病室で僕は見た。佐竹の胸の辺りにあの黒い煙が蠢いているのを。佐竹がこうなってしまった原因は、僕にある。今も僕の足から、彼の体に黒煙が移動し続けている。










【 この不幸は、僕だけでなく周りの人間にも伝染する 】










「なんだよ、来たのかよ~。しかも……手土産は、なしか。今日は、どうした?」






「………ごめん」






「は? なんで、お前が謝るんだよ。ところで、どうよ。最近。先輩とは、もうエッチした?」






「………してない」






「ふ~ん。そっか、そっか。まーだ童貞君のままか」






「……………」






「……………」








居心地の悪さに耐えきれなくなった僕は、逃げるように病室を出た。弱った親友をこれ以上見ているのも辛かった。








僕は、すぐに学校に行きーー










屋上の住人。南先輩に謝り、別れることにした。










「いいよ」








先輩は、付き合う時も別れる時も一緒。僕に対する未練は、感じなかった。こうなることを初めから分かっていたんだろう。




でもーーーーーー




「…………」




でも本当は、気づいていた。


先輩が、声を殺して泣いていること。




だから僕は、振り返らずに




「ごめんなさい」


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