貪欲なスキル・クラウン

いぬぶくろ

プロローグ

「あー……」


 低く呻いてから、手に持ったコップで湧き水をすくい飲む。


「ぐへぇ……」


 寝ながら飲むと、やはり顔に首にと流れてくる。

 寝ながら見上げる天井は岩ばかり。

 背中に当たる感触も岩、岩、岩。

 それも、そうだ。ここはダンジョンだから。


「あー……。もうすぐ4日目かな……?」


 ここに寝転がり始めてから4日。

 毎日、天井を見上げて腹が空けば湧き水を飲む。

 一応、冒険者というカテゴリーだが、ここに倒れている理由はモンスターとの戦いに敗れてただ死を待つだけ、ではない。


 働きたくないから、働いているふりをするためにダンジョンへ潜り、4日たったら疲労困憊の顔をして地上へ戻る。

 その間、ただひたすら腹を空かせないためにこうして寝そべって湧き水を飲む作業にいそしんでいる。


 辛くないかって?

 辛いに決まっているだろ。


 ただひたすら水を飲むだけの生活に娯楽なぞあるわけ無く、ただひたすらに日々の生活に対して焦燥感を募らせながら生きている。

 あっ、食欲関係は結構、大丈夫です。

 この湧き水を飲むと、なぜか知らないけどとても食欲が満たされるから。

 固形物に関しては――。


「ギッ、ギギィ――」


 小さな洞穴から、これまた小柄なゴブリンが現れる。

 一匹では弱いゴブリン。されど、束になり知恵を結集すれば中堅冒険者をも倒すモンスター。

 寝そべりながらモンスターに会えば慌てふためくのが普通だが、こいつはちょっと違う。


「ギギッ」

「おっ、どうもどうも」


 ポイッ、とゴブリンが俺の体に投げつけてきたのは、小汚い小物入れだった。

 中を探ると、炒り豆が一食分くらい入っていた。

 冒険者が逃げるときに落としていったのか、それとも落としていったのか。

 まぁ、そんなことはどうでも良いけど、俺はゴブリンからこうした食い物を貰っても生きている。


「炒り豆か……。まぁ、もう地上に戻るつもりだし、飯より金になる物が欲しいんだよな」


 そういうと、ゴブリンは炒り豆の袋とは反対の手に持っていた小袋を投げつけてきた。


「おっと、こいつは――」


 袋の中は、小さいが純度の良い魔石とそこそこ物の良さそうな指輪が入っていた。


「魔石はよしとして……指輪はまたスカベンジャー呼ばわりされるな」


 まぁ、関係ないけど。

 ダンジョンで死ぬ奴がいけないんだ。

 または、こんな良い物を落とす奴が。


「良いだろう。こっちへ来な」


 手で合図すると、ゴブリンは嬉しそうにこちらへ駆けてくる。


「えーと、こうで良いかな」


 ダンジョンにこもると、必ずと言って良いほど飛蚊症になる。

 そして、たまに――最近では任意に――飛蚊が固まっているところを指でなぞると手のひらに白色の炎が出る。


 これに攻撃といった能力はなく、代わりに、この手でこのゴブリンを撫でるとたいそう喜ぶ。

 同じな出るなら、こんな不細工なモンスターを撫でるんじゃなく、可愛い女の子を撫でたいもんだ。


「ギィーッ! ギィーッ!」


 今回も同じく白い炎を宿した手で撫でると、ゴブリンはたいそう喜び、小躍りしながら俺の前から姿を消した。


「変な奴」


 ゴブリンの後ろ姿を見送り、俺も立ち上がる。


「さてっ。久しぶりに外へ行くか」


 次に来るのは三日後だ。

 その日まで、ここが他の冒険者に見つからないように岩を動かして隠しておかなければ。

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