第6話 魔城の図書館
ロージは魔女王に案内されて城内の図書館にやってきた。
もはやちょっとしたホールと言えそうな広大な空間に、天井まで届きそうな高い本棚。分厚い本がぎっしりと詰め込まれている。図書室なんて規模ではなくまさに図書館だ。
「こ、この中から資料を探すのは骨が折れそうですね……」
「少々お待ち下さい」
若干気後れするロージだったが、魔女王はブツブツと呪文を詠唱し始める。
すると、図書館の石畳から何か――小人のようなものが次々と出てきた。
「わっ!? なんだこいつら!?」
「ノームという土でできた小人です。彼らに本を検索してもらいましょう」
魔女王がそう言うと、ノームたちは一斉に本棚へと散らばっていく。
「その間にロージさんは少し勉強してみませんか?」
「勉強? 何の?」
「魔法、覚えてみたくありませんか?」
魔女王は近くの本棚から本を引っ張り出し、いたずらっぽく微笑む。
「ネイバーランドと違ってチキューには魔力がほとんどないと聞きますので向こうに帰ったら多分使えなくなりますけど、この世界で生きるならきっと使えたほうが便利です」
そう言って、魔女王はロージに本を手渡す。
『魔法学入門』と書かれた、革のカバーがかかった本だった。いわゆる魔導書ってやつか。
「ニホン語で書かれている本なので、おそらくはすぐ理解できると思いますよ」
「なんで俺にそこまでしてくれるんですか……?」
純粋に疑問が口から飛び出た。
「何故でしょうね……なんだか、ロージさんを見ているとほっとけないと言いますか……」
自分でも不思議なのだろう、魔女王は首を傾げながらそう言う。
「もしかしたら、私が魔女王になる前にロージさんに会っているのかもしれませんね」
「そういえば、魔女王になる前の記憶がないって言ってましたね」
「ええ……気づいたら私はこの城の王座に座っていて、あの三幹部が目の前に跪いていて……」
なるほど、一度あの三幹部とやらに話を聞いてみたほうが良さそうだ。
ロージは自分の記憶も気になるが、ここまで親切にしてくれる魔女王にも恩返しがしたかった。
ロージが基礎的な魔法――小さな火や氷の塊を手から出せるようになった頃、ノームたちが本を抱えて戻ってきた。
検索にヒットしたのは、この広い図書館でたったの五冊。
しかも、その内容は期待に沿うものではなかった。
「うーん……どれもチキューの人間をこちら側に召喚する方法で、逆はなさそうですね」
ロージは文献を読み漁りながら唸り声を上げる。
「チキューには魔力が枯渇していますし、向こうから召喚してもらう……というほどの腕前を持った魔法使いがいるかどうかも絶望的ですね」
そもそも、チキューとネイバーランドの間で連絡を取る手段も今のところ確立していない。
もしネイバーランドからチキューに戻れた人間がいたとしても、再びネイバーランドに来る人間は滅多にいないので、チキューに戻る方法を書き残している人間もいない。
「でも、そうですね……逆召喚を使えばいけるかもしれません」
「逆召喚?」
顎に手を当ててつぶやく魔女王に、ロージは首をかしげる。
「チキューの人間をネイバーランドに召喚する魔法を応用して、ネイバーランドからチキューに送り返します」
「そんなことできるんですか!?」
「一応魔女王権限でこの世界のすべての魔法を使えるんですよ、私」
嘘だろ、チート過ぎる。そりゃヒイロたちも歯がたたないわけだ。
「ただ、逆召喚は魔力の操作が繊細で、座標を確定させるのが難しいんです。運良くニホンに飛ばせればいいのですが、下手したら他の国に行ってしまうかも……」
「Oh...」
パスポートも持ってないのにいきなりブラジルとかに飛ばされたら困る。
「ちょっと上手く座標を確定できるように術式を組んでみます。もしかしたら時間がかかるかもしれませんが、ロージさんは必ず元の世界に帰して差し上げます」
「ありがとうございます、陛下」
「そういえば、申し遅れていましたね」
魔女王は今気づいた、と照れ笑いをした。
「私の名はノルン。魔女王ノルンと申します」
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