第112話 集団戦の先触れ
花崎高校のポーク構成は、最低限の仕事をこなした。
もうすぐ集団戦が始まる。それに備えて、東源高校のHPをきっちり削っておけた。
東源高校は、回復スキルを組み込んでいないのだから、かなりのプレッシャーを感じているだろう。
プレッシャーが増えるほど、操作ミスや判断ミスが増えていく。
(だからといって、ミスを恐れて、自分たちの強みを捨てるチームではないわね)
魔女のリーダー・吉奈は、集団戦に備えて頭の中を整理した。
どこまでいっても、ポーク構成の強みは遠くから敵のHPを削ることである。
集団戦が始まる前に、敵のHPを削っておくことで、その後の展開を有利に運ぶ必要がある。
逆に考えれば、もし集団戦が始まる前に、ちょっとでもHPを削れなかったら、瞬間火力に優れた東源高校の構成に敗北してしまうだろう。
「みんな、集団戦よ。敵の仕掛けに備えて、少しだけ後ろに下がって」
吉奈は、仲間たちに指示を出した。
やや受け身の姿勢だ。だが弱気なのではない。
尾長の狙いをズラすためだ。
これまでの花崎高校は、ポーク構成を採用しても、積極的に自分たちから仕掛けた。
その流れを、もっとも大事な集団戦で崩したのだ。
きっと東源高校は、これまでの積極策を採用した花崎のリズムにあわせて、索敵を行うはずだ。
だがしかし、彼らの想定したラインに花崎高校は滞在していない。
つまり、もう一度ポークを当てるチャンスが生まれるわけだ。
花崎高校のメンバーたちは、それっぽい位置に、視界管理用の歩兵を数体置いた。
これは囮だ。
東源高校の先兵が、この囮を排除したら、一斉にポーク攻撃を行う。
それを合図に、集団戦が始まるだろう。
どんな展開の集団戦になるかは、まだ誰にもわからない。
増水した川のように激流かもしれないし、つばぜり合いみたいにお互いをけん制しながら接近するかもしれない。
集団戦の勝敗を決するのは、意思の疎通である。
自分の仲間たちが、どんな判断でスキルを使うのか?
これが統一できていなければ、どれだけマクロとミクロが優れていようとも、仲間の誰かが孤立して、そこを叩かれて負けることになる。
花崎高校は、意思の疎通が完璧だ。
ずっと同じメンバーでやってきたからだ。
それに比べて東源高校は、意思の疎通が完璧とは言い難い。
今年入ったばかりの一年生がいるからだ。
だがしかし、今年入ったばかりの一年生は、天才であった。それも国際大会を経験したことがあるほどの。
(元LMの天才を正攻法で倒したい。予選のときみたいな、弱点を突く方法ではなくて)
吉奈が決意を固めたとき、ついに東源高校の先兵が囮にかかった。
お笑い生徒会長・未柳のファイターと、メイド服が似合う・薫のハンターだ。
残りの三名は、囮の視界に映らなかった。
もっとも位置情報を知りたいキャラは、kirishunこと桐岡俊介の格闘家だ。
だが、まだ発見できていない。
吉奈は、足音に集中した。俊介の位置をつかむために。
まるで合戦場の足軽軍団みたいに、足音が連なっていた。集団戦が始まる直前なため、どの足音が、誰を示すのか、まったくわからない。
吉奈は、決断に迫られていた。
このまま当初の予定通り、囮に引っかかったキャラにポーク攻撃を当てるのか。
それとも俊介の格闘家を発見するまで、不用意に動かないか。
迷っている暇はなかった。
チームの意思疎通を乱さないためにも、今からセカンドプランに切り替えるのは危険と判断。
「攻撃開始」
囮に引っかかった未柳のファイターと、薫のハンターに、ポーク攻撃を開始した。
その直後、真西から足音が聞こえた。
心配性の真希から悲鳴が上がる。
「なんでkirishunがそこにいる!?」
そう、完全な真っ暗闇である真西から、俊介の格闘家が飛び出してきたのだ。
ありえなかった。あそこに隠れるためには、少し前に発生した少数戦の直後から、ずっとあの周辺で待機している必要がある。
その間、歩兵を動かせないし、金鉱の採掘だってできない。
だがしかし、東源高校は、この集団戦ですべてを爆発させるために、リソースの不利を承知で賭けに出たのだ。
魔女のリーダー・吉奈は、気合十分で叫んだ。
「囮にかかった、ファイターとハンターを先に殲滅するわよ」
先に殲滅してしまえば、たとえ真希のハンターがダウンしても、それぞれのチームの生存キャラ数は4 vs 3となり、花崎高校有利になる。
集団戦は、生き残っているプレイヤーキャラが多い方が、圧倒的に有利だ。
だが、この目論見が、うまくいくかどうかは、また別の話だった。
花崎高校と東源高校。
全国大会の切符をかけて、ついに集団戦が始まった。
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