Time is money
@tatitutetomatode
『二万年の寿命を持った少女』
世界は変わった。
消費税は僅か一%。他の税も著しく低くなった。
理由は簡単。金銭が世界にあふれてしまったから。神が追加したクソみたいなルールのせいで世界には金銭があふれるようになった。
ルールは簡単。
人というあらゆる可能性に満ちた存在の、余命をあらゆるものに変換出来るようにした。本当の意味での、時は金なり。というわけだ。
そして、このクソみたいなルールのせいで、ほぼ例外なく障害を持って生まれてくる子供が全員、金銭に変換されるようになった。
吐き気のするような話だ。
人々は障害持ちの子供が金銭に変換されることを合理的だなんてぬかしやがる。ふざけるな。何が合理的なものか。
障害を持った子供を育てるのは親の負担になる。障害を持って生まれてきた子供は生きづらい。なら、世界に貢献させた方が良い。
ふざけるな、と私は言いたい。
障害を持っているからなんだというんだ。何も変わらないじゃないか。なんでそんなことぐらいで、世界の都合で、生きる権利を奪われなければならない?
おかしいじゃないか。それを認める世界も。そんなルールを作った神も。
「また変なこと考えてるでしょ」
言葉をかけられ、思考が現実に引き戻される。
隣にいる女子生徒、
「なあ、桜。この世界をどう思う?」
「……やっぱり変なこと考えてる。いっつもそんなこと考えてるよね」
「そうかもしれないな。それで、どう思うんだ?」
「そうだねー。私は良くなったと思うけどなー。もちろん
その考え方が、だよ。とは私には言えなかった。私は
自殺願望のある人間の余命が有効的に使われる。
言葉だけを見ればどれだけ素晴らしいことだろうか。世界に良いことであることは間違いない。
だが、言葉だけを見れば、だ。実際はそんなに良いものじゃない。
大体、自殺願望のある人間とはなんだ? その判別をどこでする?
そんなものは不可能だ。
勝手に政府が決めて、余命を奪い取る。それが現状だ。
それが世界にとって、国にとって良いことなんだ。
そんなことを考えてふと思う。何故、神はこんなクソみたいなルールを追加したのだろうか。
人間の余命は生命エネルギーの塊である。
その理論は分かる。確かに未来有望な少年少女の余命なんてエネルギーの塊だろう。
だが、それを金銭などの汚いものに変換できる機能を何故作る必要があった?
教えろよ、神様。
***
少女はため息をついた。馬鹿みたいに広い豪邸の一室。
そこで少女はタブレットをいじりながら独り言を呟いていた。
「私はなんでこんなにあがめられることになったんだろうなぁ。神の子だなんて、馬鹿じゃないの」
少女は嘆くように呟く。
少女は確かに生まれた時から神の子と崇められていた。それは運命だった。仕方のなかったことなのだ。
この世界は時を中心に動いている。時をたくさん持っている者が強者であり、年功序列というのはなくなったに等しい。
もちろん形式として年上は敬われるが、余命をあらゆるものに変換できるこの世界では、明かに若い人物の方が力を持っているのだ。
また、同じ一年でも母数が長い一年の方が価値が高く、多くの時を同時に使った方が価値が高くなる。つまりは、長い余命を持つものが一気に余命を消費するのが一番効率がいい。
だからこそ、余命が長い人物は重宝される。
ここまで言えば大体分かったことだろう。
この少女は余命が他人とは比較にならないぐらいに長い。
実に二万年。
少女が産声を上げた時に、頭上に表示されていた数字である。
***
二万年の寿命を持つ赤子。
生まれた瞬間、頭上に表示されている余命を表す数字が今まで見たことのないくらい長かった、と担当医師が驚き、確認したことで有名となった。
余命を表す、頭上に表示される数値。
もちろん、自分の意思で見せなくすることは可能であるが、デフォルトの状態では見えるようになっているので、生まれたばかりの赤子の余命は晒されている。
また、この数値は残りの生命エネルギーから計算される余命であり、事故などで急激に減る場合もあるが、未だかつて、この数値を覆し、長生きしたものはいない。
だからこそ、自分自身の意思で絶対に見ないようにする人もいる。
だが、そんなことをしたところで、数値が絶対であることに変わりはない。
つまりは、二万年という寿命が表示されている以上、その赤子は生まれながらに世界を変えうるほどの絶大な力を持っているということだった。
そんな赤子を世界は放っておかなかった。すぐに赤子を生んだ家族は世界から保護され、厳重に警戒されるようになった。
赤子は生まれた時から普通に生活することを許されなかったのだ。
二万年間の監禁。
赤子は物心ついたころから、もしかしたらあり得るかもしれないこの事実に恐怖していた。
そして、一つだけ。
たった一つだけ少女がずっと知りたいと思っている事実をどうにかして手に入れようと画策していた。
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