巻き込まれて異世界召喚、その果てに

ねむねむ

一章 異世界召喚

プロローグ

 ……長い、永い道のりだった。

 ここに至るまで多くの苦難を、絶望を味わった。何度も挫けそうになり、何度も失意に涙した。

 

 この世界は無常だ。否、どのような世界であっても現実というものは非情で、許しがたいものではあるが。


「……けれど――それでも俺はここまで来た」


 荘厳なる宮殿――悪趣味ともいえる黄金宮殿、その玉座の間で白髪の少年が呟いた。

 白銀の鎧を身に纏い、蒼光を放つ盾を持った姿はまさに聖騎士と表するに相応しい。

 されど、もう片方の手に握られている漆黒の剣が黒雷を放っているためか、神秘性は損なわれていた。

 加えて少年の表情は無――その虹彩異色の双眸もまた殺意に塗れており、禍々しいと言えるだろう。


「はっ、この間まで雑魚だった奴がこうも化けるとは……これだから人族は」


 光と闇――相反する性質を持ち、凄絶なる覇気を放つ少年を前にしても動じない男が玉座に座っていた。

 金髪金眼――その巨躯からは雄大なる覇気が放たれている。粗暴さが目立つが、その欠点を補って余りある魅力の持ち主であった。


「その雑魚にこれからお前は殺されるんだよ」


 言葉に宿るは極限の憤怒と殺意。

 受けた男は肘掛けを使って頬杖をつき、足を交差させて嗤う。


「面白い。あの臆病者から受け継いだ力、俺に見せてみろ」


 挑発した男は玉座から立ち上がると、虚空に手を伸ばす。

 すると突如として大槌が現出、男の手に収まった。


 臨戦態勢――見て取った少年は。


「〝王鎧〟力を解放しろ」


 その言葉に応じて少年が纏う鎧が白銀の輝きを増した。

 次いで何もない空間がひび割れ、中から無数の剣が姿を現す。

 それらは亀裂から這い出ると、空中を縦横無尽に飛び回り始める。一見、規則性がないように感じられるが、よく見れば少年を護るように動いているのが分かるだろう。


「〝王盾〟準備はいいか?」


 少年の問いかけに、左腕にある盾が振動する。

 かつてない強敵を前にして奮い立っているのだ。


「〝天死〟……お前の悲願を叶える時が来た。出し惜しみはなしで行こう」


 少年の右手に握られた黒雷を放つ剣が鼓動する。

 訴えかけてくる想いは――純然たる殺意だ。


 相棒たちの戦意を確かめた少年は、最後に盾を付けた左腕を前に突き出す。

 そして、戦友から受け継いだおもいに呼びかける。


「時は満ちた。今こそ全てを喰らい尽くせ――〝王剣〟」


 瞬間――空間が割れた、裂けた、砕けた。

 鮮烈な破砕音を奏でて世に降臨したのは黒き剣。闇よりも濃く、絶望よりも深い黒。

 柄と鍔は黒で、刀身も黒――されど赫き線が無数に刻まれており、明滅を繰り返している。

 それはまるで血管のよう。生物的で、だからこそ見る者全てに嫌悪感を抱かせる。


「……なんだその剣は。反吐が出るくらい悪趣味だな」


 少年と対峙する男もまた嫌悪を露わにした。

 

 しかし、言われた少年は吐き捨てるように言い返す。


「お前の宮殿や服装――センスのなさを棚に上げるなよ。それにこの剣はお前とは比べ物にならないほど立派なんだ。だから――戦友ともの想いを侮辱するな」

「はっ、自らの弱さに屈した男が戦友だと?つくづく笑わせてくれる」


 男が返した、その一言は致命的だった。言ってはならない、考えることすら許されないと少年が思っていることだった。


 だから――


「……殺してやるよ――〝日輪王〟ソル!!」

「ハハハッ!来い、〝白夜王〟ガイア!!」


 ――この激突は、必然だったのだ。

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