女子力男子は幼馴染のキューピッドになるか?【カクヨム甲子園バージョン】

無月兄

第1話

いつき、私にチョコの作り方教えて」


 いきなりそんな事を言ってきたのは、同級生の美緒みおだった。美緒とは家が近所という事もあって、物心がついた頃には仲良くなっていた。そして高校生になった今でも、その縁は変わらず続いている。

 そう言う訳で美緒とは長い付き合いなんだが、俺の知る限りコイツがお菓子を作りたいなんて言い出したのは初めてだった。


「お願い。来週までに作れるようになりたいの」


 来週。ずいぶんと急だなと思ったが、カレンダーを見て納得がいった。来週月曜日は2月14日、つまりはバレンタインだ。

 思わず俺はため息をつく。


「高瀬先輩、まだ諦めてなかったのか?」


 作ったチョコを誰に渡そうとしているかは分かっている。美緒がマネージャーをやっているサッカー部の先輩で、前から好きだという事は聞いていた。だけどハッキリ言ってその想いが成就するとは思えない。

 だって――


「いいでしょ。私が誰にあげても樹には関係ないじゃない」


 俺の思考を遮るように、美緒は頬を膨らませながら言う。作り方を指導するなら俺は全くの無関係ではないと思うのだけど。


「何で俺なんだよ。作りたいなら一人で作ればいいじゃないか」

「だってレシピ見ただけじゃ上手く出来るか分からないし、樹なら女子力高いから作り方知ってるでしょ」

「女子力言うな」


 確かに俺は共働きの両親に代わって、小さい頃から料理をすることが多かった。だけどそれはあくまで必要だからやっただけ、言うならば家事力だ。だいいち、男が女子力高いと言われても嬉しくもなんともない。


「だって樹、普段の食事だけならともかく、ケーキやクッキーだって作ったことあるじゃない。それってもう立派な女子力じゃないの」


 俺の抗議もむなしく、美緒は全く悪びれる様子も無く言った。


「それより、チョコの作り方教えてくれるの?くれないの?」


 真っ直ぐに俺を見据えながら聞いてくる。こうなると美緒は頑固だ。断っても最終的に押し切られるのは長年の経験で分かっていた。

 渋々ながら俺は了承するしかない。


「しょうがないな。教えれば良いんだろ」

「本当!ありがとう」


 さっきまでとは一転して満面の笑みを浮かべる。ほらこれだ。そんな顔を見せられたら断るなんてできないじゃないか。


「そもそも、俺がお菓子作り始めたのは誰のせいだと思ってるんだ」


 ボソリと呟いたセリフは彼女の耳には届かなかった。

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