第85話 あやかしの国

「さあできたよ!」

テーブルの上に大皿が置かれた。

凍っている。

雪女は箸でつまむと、ザクザクと音をたてながら食べた。

食べれるかな、これ。

私は不安になった。

「おい、雪女。これじゃ凍ってて食えねえよ」

「じゃあ燃やせばいいだろ」

雪女は食べながら答えた。

火の車は口から炎を吐き、燃やした。

まだ燃えている肉じゃがを一気にかきこむ。

「うめえな!」

火の車は満足そうに咀嚼した。

どっちの食べ方も難易度が高すぎる……。

そうだ、雪子は?

雪子は凍ったまま食べたり、手からポッと火を出して、燃やして食べていた。

どちらもできる子だった……。

私は凍ったまま少しずつ食べることにした。

うん。食べ慣れてしまえば美味しく感じる。

「それで?何が聞きたい?」

火の車が言った。

「ここはどういった国ですか?」

「あやかしの国さ。みんな妖怪」

雪女が答えてくれた。

「何種類かあってね。私や火の車を含めた陸上妖怪、水の中で暮らす水中妖怪、空を活動拠点とする天空妖怪、そして雪子のように複数の能力を持つ特別妖怪。それぞれの種類でまとまって暮らしているのさ。

雪子は将来、雪女と名乗って家をついでもいいし、他の場所へ行って特別妖怪と名乗るのもいい」

「雪子はママと一緒にいるもん!」

雪子は雪女に抱きついた。

「パパの方には来てくれないのかな?」

火の車が雪子に寄った。

「やだ!パパ熱い!」

火の車はしょんぼりとして元の位置に戻った。

気を紛らわすためか、火の車がこの国について話し始めた。

「水中妖怪には気を付けろ。あいつらは人の子を見つけると食っちまうからな。

栄養価が高くて旨いんだと。俺には理解できねえが」

「その点天空妖怪は人の子を大切にする印象があるねぇ。信仰対象にしている者もいるとか。

陸上妖怪はそれぞれの妖怪によるよ。なんせ数が多いからね。色んな考え方のやつがいるのさ。人の子の味方のやつもいるけど、お金目当てで水中妖怪に売っちまうやつもいる」

雪女は困ったように肩をすくめた。

なるほど。とりあえず、水中妖怪には気をつけなければ。


雪子が私の袖を引っ張った。

「ねえねえー!雪子、人の子の話聞きたいー」

「確かにねぇ。今度はあんたが語る番だ」

この人(?)たちは信用できそうだ。言い方に変な淀みがないし、私のことを大切に考えていてくれる。

「私の名前は茜と言います。日本という国から来ました。この国の上に、カラ国という別の国がありました。だからこの国の下にも、別の国があると思うんです。私はそこに行きたいと思っています」

「ふぅん。この下に国がねぇ」

雪女は指を顎に添えて考えた。

「考えても分からんさ。俺たちみたいな知ってる情報が少ないやつは、結論を出す前に誰かに相談した方がいいんだよ」

火の車が顔をぐるぐると回した。顔をこちらに向けたままで。車のハンドルのように回ったのだ。

「それじゃあ、結依羅ゆいら様に相談しようかねぇ」

雪女はそう言うと、雪女は食器を片付け始めた。

「今日はもう暗い。疲れているようだし、早く寝てしまいなさい」

火の車は親切にそう言ってくれたので、私は案内された部屋で、眠ることにした。


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