第84話 雪女の家

「ここが私の家だよ。さあ入りな」

入るといっても、扉が見つからない。

「ほら、あそこから入りなよ」

雪女が指差したところには、氷の表面に細長く切れ込みが入っている。だが、扉のようになっているわけではない。

「もしかして開け方分からないのかい?」

「はい……」

私は素直に返事をした。

雪女は指を差していたところを思い切り蹴飛ばした。白く美しい足が見える。

氷の切れ込みが入れてあった部分が、内側にぶっ飛んでいった。

「な?簡単だろう?」

雪女はにこりとした。

私は驚いて口を閉じるのを忘れた。

いやいや、無理でしょ。

私一人じゃ入れないって。

雪女は家の中から手招きした。


家の中は日本とあまり変わらず、リビングや洗面所などの定番とされている部屋があった。

温度も普通だ。

唯一変わっている点は、床や壁が氷で覆われていること。そして外から見たのと同じように氷の中で炎が燃えている。

「おう、帰ったか」

低い声が聞こえてきた。

「あんた、お客だよ」

「ん~?」

リビングの隣にある部屋から大きな顔が覗いた。

顔が私の顔から胴体くらいまであった。

木でできた車輪の中に、男の顔がある。

「雪女、お前が帰ってきた途端に寒くなったぞ」

「それなら暑くすりゃあいいじゃないか」

「そうだな」

男は顔を膨らませた。

ボッと、車輪の外側に火がついた。

雪女は溶けた床の氷を補強する。

「お客さんだっけな。なんだこの子は」

「人の子だよ」

男は驚いた。

「なんと!」

「しばらくうちで面倒をみるよ。いいだろ?」

「もちろんだ。それにしても人の子とは……。

触れてみたいが、手足がないのが惜しまれる」

男は私をまじまじと見た。

「俺は火のひのくるまという。雪女の夫だ。よろしくな」

火の車は、がははと豪快に笑った。

「おいあんた。あまり興奮しないでおくれ。暑くって仕方がない」

「ああ、悪い悪い」

火の車は火を弱めた。


「あの……ここはいったい……?」

ガラガラと音を立てて火の車が近づいてきた。

近くに寄るととても熱い。

「まあまあ、そう急ぐなよ。ご飯でも食べながらの方がいいぞ」

にこにこと火の車は言った。

「そうだねぇ。じゃあ席について待ってておくれ」

雪女が髪を結って台所へ向かった。

「肉じゃがを作ってあげようね」

雪女は鼻歌を歌いながら作り始めた。


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