第70話 面会

ケケの手から血が滴る。

それをどうでも良さそうにケケは眺めた。

ココに触れる。その体はやけに冷たかった。

ケケはココの頭を撫でた。

「待ってて。今焚き火をするからね」

近くの暖炉に部屋の瓦礫を入れて、火を起こす。煉瓦の近くに、マッチがあった。

火は、思いの外早く燃え上がった。

「ココ、あったかい?」

応答はない。

「はは、そうか。

温かいね。良かった」

ケケはココを再び抱き締めた。

目から涙がぽろぽろと流れ落ちる。

ケケは煉瓦の中から、瓦礫を一つ取り出すと、部屋に投げた。

床に火が移る。ケケは他の瓦礫も同じようにした。

部屋は火に包まれた。

「大丈夫。今度は一緒に」

ケケはココを強く抱き締めた。

そうして二人は、炎に包まれた。



私は王座の間の扉の前にいる。

他の部屋とは比べ物にならないくらい立派だ。

扉を開けると、中には豪奢な椅子があり、一人の男が腰かけていた。

年は若く、体は金と赤が目立つ。

「ようこそ、私の愛しい国民よ」

王はやんわりと笑って言った。

「愛しい、だと……。

何人死んだと思ってる!」

「ああ、そうだね。悲しく思う。だが、仕方のない犠牲なんだよ」

王は赤子に諭すように優しい口調で言った。

それが私の神経を逆撫でした。

「ふざけるな!人が死ぬのに、仕方ないも何もないんだよ!

この、くそやろう!」

私は王に殴りかかった。

次の瞬間、私は壁に背中を打ちつけた。

いつ攻撃されたかすら、分からなかった。

「落ち着いて。さあ、君は何を私に伝えたいのかな?」

私は服に爪を立てて、感情の行き場を作った。

「この国は、偽物だ!

お前は、どういう気持ちでこの国を治めている!」

王は首をかしげた。

「この国が偽物?何を言っているんだ?

皆が笑って、本物じゃないか」

「本気で言ってるの?

不治の病だって、あなた達が作ったんでしょ?」

「国民の脳を守るための、研究の一環だよ。

私たちは、国民のことをちゃんと考えてる」

王は自分の言葉を肯定するように頷いた。

なんだろう?この不自然なものは……。

王には嘘をついている様子がない。

その時、テテの言葉を思い出した。

『この国のトップは王様じゃない』

「あなたの上は誰?」

王の顔が一瞬曇った。

「何を言っている?王が一番上に決まっているだろう。

仮にいたとしても、それを知ってどうする?」

「確かめるの。どうして、国民をこんな状態にしたのか。組織っていうのは、本当のトップをどうにかしないといけないもの。

もうあなたには、用がない」

去ろうとする私を、王が止めた。

「国民をこんな状態、だと?

どんな状態か言ってみろ」

私は舌打ちをした。

「感情を殺させ、意のままに動く、操り人形にしたでしょ!」

「え?」

王が間抜けた声を出した。

「いや、動物への変身で、国民の脳に負担がかからないように敢えて、脳を補助してきただけだ。

感情を殺させるなんてことはやっていないはずだ」

王は困惑していた。

なんで?王は知らないの?

そういえば、テテやその他の側近も、国民の無感情について、何も言っていなかった。

知らされていないのか?

いや、もしくは、王を含めた全員が、操り人形の対象に入ってる?

王と私、どちらも自身の思考に潜り、場は沈黙で満たされた。



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