第71話 状況変化

礼拝堂で、レレはキキを追い詰めていた。

「さあ、しゃべってもらおうか。この国のこと」

「話すわけないでしょ!バーカ」

レレはキキの指を折った。

「うわああああああん!」

キキは泣き叫ぶ。

「僕は、優しくないよ。

女の子の顔だって殴るし、指だって折る」

キキはレレを睨み付けた。

「なに!?

あの茜って子を傷つけたから怒ってるの?」

「それもあるが、私が怒っているのは別件だ。

君は、僕の妻子を冒涜したね?」

「ああ、不治の病のこと?

あんなのその人の記憶の人物を適当にしゃべらせているだけよ」

キキはうっすらと笑った。

「あたしには関係ないわ」

「僕の妻子はね、優しいんだよ。

絶対にあんなことを言わない」

レレはキキを睨み付けた。

「僕の大切なものを傷つけた罪は重い。

本来なら、拷問をするところだ」

キキは目を見開き、怯えた。

「もうこれ……拷問でしょ……。

あなた……国民のくせに……」

「何十年と、悪夢に苦しめられ、狂ってしまった男に、君は何を期待している?

今さら、立場を気にするとでも?」

レレは自虐的に笑った。

なかなか国の情報を言わないキキの顔をレレは再び殴ろうとした。

キキは焦って両手を出した。

「わあああ!ストップ!ストップ!

言うからぁ!」

レレは拳をおろした。その顔は険しいままだ。

「この国は2ヶ所から、特殊な音波が出ているの!

音波っていっても、生き物には聞こえないレベルの周波数のやつ。

その音波に、私は悪夢をみせるものを加えたの」

「その特殊な音波とは?」

キキは少し躊躇った後に話した。

「人間を変化しやすい性質にするもの、だよ」

レレは首をかしげた。

「具体的には?」

「そのまま。

思考も性格も変わりやすく、もちろん姿も変わりやすい。

その方法であの方は国を理想的に導いたの!」

「理想的に、ね……」

「そうよ!誰が見ても理想的な国に!

姿を変えるのってね、思っている以上の負担なんだよ。特に脳にね。

普通だったら、頭おかしくなっちゃうわ!

だから、特殊な音波を使って変化しやすくしたの!

あれ?それでどんな効果があるんだっけ……?

えーと……」

キキは上を向いて、考え込んだ。

「えーとね、ちゃんと理由も聞いた気がするんだけど……。嘘じゃないよ!

なんだっけなー……」

レレはキキの様子を気にせずに話した。

「他には?」

キキは慌てたようにで首をふった。

「もうない!

私の情報は全部言ったわ!」

嘘をついている様子はない。

どうしたものかとレレが考えていると、煙たい匂いがした。

キキも異変を察知している。

これは……。

「火事だ!」

キキはレレの意識がそれたことをチャンスとして、どこかへ走って行った。

僕も逃げなければ……!

茜はどこだ?茜!


王がゆっくりと話し始める。

「君が先ほど言ったことの根拠はなんだ?」

「口調の平坦さ、感情の移行の遅さと極端さ、それから不治の病の人も実際にそう感じている」

王は口元を抑えている。

部屋の中は再び静かになる。

大きな物音で、沈黙は消された。

なんだか、焼ける匂いがする。

火事!

扉を開けると、熱風が入ってきた。

王座を見ると、そこに王はもういなかった。

煙の方向は、私の右から左に向かっている。

つまり、風向きから判断して、私は右方向に逃げればいい。

影が私の顔にかかった。見上げると、炎に包まれた支柱が倒れてくるところだった。

私は慌てて避けた。そのせいで窓ガラスを割り、私の体は外へ投げ出された。

何か掴まれるもの……!

手を伸ばすと、レレさんが私の手を掴んでくれた。

「僕の手をしっかり掴んで!」

レレさんは私を引き寄せつつ外に飛び出し、外壁に爪をたててスピードを殺しながら、落ちていった。

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