第68話 今度こそ

「さて、これからどうすんだ?」

ロロをちらりと見た後、カカは頭をかいた。

「とりあえず、他の人に合流するのがいいわね。

ところで……」

「ん?なんだよ?」

「あなた、ロロに色々と得意気に説明してたけど、あれ全部私が言ったことじゃないの!」

「だ、だって仕方ねえだろ!あの状況だと、俺が話す感じだっただろ!」

「そうだったけどー!」

ナナは頬を膨らませた。


カカが何かに気づく。

「危ねぇ!」

カカがナナを庇った。

「え!?何!?」

ナナがカカを見ると、カカは足を押さえてうずくまっていた。

「ちょっと!血が出てるじゃない!

どうして!?」

影が顔にかかり、ナナは顔をあげた。

ロロが立っている。手には、ナナが最後に武器にした、細長い装飾品を持っていた。

「任務……、任務……」

「なんなのよ、こいつ……」

ナナは青ざめる。

カカがロロの足の関節にタックルをした。

ロロは倒れる。

「逃げろ!ここは俺が受け持つ!」

「嫌よ!あなたも一緒に……」

ナナは気がついた。カカはまだ立てていない。

「俺は足が動かねえ。さっき、多分健を切られた。

俺たちで勝てる保証がないんだ。お前には死んでほしくない」

ナナはヒグマの姿に変わる。

「馬鹿なこと言わないで!

言ったでしょ!私はもう、誰も死なせたくないの!」


洞窟にて。ケケは走り回っていた。

度々ウサギになり、耳をすませると音がよく聞こえてきたが、具体的な場所が分からない。

自分の呼吸音が、やけにうるさく聞こえた。

こうして、一人で走っていると、不思議と懐かしい気持ちになってくる。

走りながらケケは思った。

いや、僕は過去に似たような経験をしている……?

足をかけて転ぶ。手には泥がついた。

僕は似たような経験をしている!

でもいつだ?いつ……。

そこでケケは思い出した。

前世だ……!


僕は、日本という国で生まれた。

双子だ。でも妹には名前がなかった。

僕が夜中にトイレで目を覚ますと、パパとママが怒鳴り合う声が聞こえてきた。

「どうして双子なんだ!

俺は跡継ぎが欲しいだけなのに!

うちの会社は今不況だ!二人も養う余裕なんてないんだぞ!」

「分かってますよ!私だって、双子など生みたくなかった……」

パパが大きくため息をついた。

「女の方の戸籍は作っていない……。

情けで5才まで育ててやったが、もう限界だ!

お前、明日捨てて来い」

「嫌です!なんで私が……!」

「うるさい!つべこべ言わずにやれ!」

そこから先は怖くて聞けなかった。

僕は急いで布団に戻ると、目をぎゅっと閉じて眠った。

大丈夫。これは悪い夢だ。


朝起きると、妹がいなかった。

まさか、本当に……。

僕は急いでリビングへ行った。

「おはよう、健斗けんと

朝食、できてるよ」

「ママ、袖が濡れてるよ」

ママは一瞬ギクリとしたが、優しい笑顔に戻ると、いつもの調子で行った。

「今外は雨が降ってるから、新聞紙を取りに行くときに濡れちゃったのかもね」

僕はおずおずと聞いた。

「ねえ、あの子は?」

ママの動きが止まった。パパもだ。

「さあ?散歩でもしているんじゃない?」

この天気の中、散歩なんてするわけない。

僕は、いつもと変わらない様子の両親が怖かった。

僕は家を飛び出した。

必死で妹を探した。パパとママには邪魔でも、僕にとっては大切な妹なんだ。

強風で差していた傘が壊れてしまった。

僕はずぶ濡れになりながら走った。自分の呼吸音が、やけにうるさく聞こえた。

川の音がした。土手から覗くと、偶然妹の靴が流されているのが見えた。僕は間髪入れずに飛び込んだ。水が冷たくて、痛かった。

「しっかりして!ねえ!」

妹の体は冷たかった。心臓の音も、脈も、何も反応しなかった。

僕は何か掴まれるものを探した。しかし草を掴んでも、水流が速くて、すぐにちぎれてしまった。

どうしよう。流れに耐えきれず、妹も僕の手から離れていってしまった。

あっ!待って!

手を伸ばしたら、体勢を崩した。僕の頭は水の中に入り、徐々に視界が狭くなっていった。


洞窟の中で大きな音がしたから、僕はそっちに走った。

階段を登る。

もう二度と、君を死なせない。

今度こそ、君を助けるから……!

ケケは扉をあけた。


ココは男に首を掴まれて、宙に持ち上げられていた。

「ココーーー!」

ケケはココに向かって、一目散に走った。

ココはケケに気づき、僅かに首をケケに向けた。

何を言うか迷ったように、口をもごもごさせたが、微笑んで、言った。その目の端には、涙があった。

「おにいちゃん、大好き……!」


ボキリ、と首の折れる音がした。

男がココを離す。

何の抵抗もなく、ココの体は地面に打ちつけられた。



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