第25話 役所へ

次の日、私は「役所」へ向かった。


「役所」のドアを開くとすぐ目の前にカウンターがあった。ドアからカウンターまでの幅はかなり狭くて、2人入ることができたらすごい方だ。

だが、従業員が働くスペースはとても広い。一番奥には引き出しがたくさんついた棚があって、様々な書類が引き出しから飛び出していた。


「ご用は何かな?」

頬にそばかすがあるお姉さんが、営業スマイルで話しかけてきた。

「『上奏権獲得試練』について聞きたいと思って……」

「ちょっと待ってね」

お姉さんは棚の一番右、上から3番目の引き出しから、1枚書類を取って戻ってきた。

「書類に書かなければいけないのは、名前と年齢の2つだけ!あとは、王様に全てを委ねることへの同意をすれば完了だよ。全てを委ねるといっても、王様を信用すればいいだけだから、別にたいしたことじゃないけど」

私は書類を受け取った。お姉さんが言った通り、書類には記入欄は2つしかなく、あとは同意するためのチェック欄があるだけだった。

「試練の内容はどんなものなの?」

「ごめんね~。試練の内容は私にも分からないの」

お姉さんは両手を合わせて、「ごめん!」というポーズをとった。

「毎年内容は変わるらしくて、王様とその側近しか内容を把握している人はいないんだよね。王様のことだし、そこまで危険なものはないと思うけど」

「分かった。ありがとう」

私は軽くお礼を言って、「役所」から出た。


家に帰る途中で、レレさんのところによった。

私は「上奏権獲得試練」についての全ての情報を教えた。

「なるほど。カラ国にはそんなものがあるのか。知らなかった」

レレさんは驚いていた。

「試練、というものが厄介だね。王様に全てを委ねることに同意しなければいけないのも怪しい。はっきり言って危険だね」

「でも、この国を知る、絶好の機会です。参加する価値は十分にあります」

レレさんは数秒考えた後、

「じゃあ、僕が参加しようか」

と言った。

「僕の命は君よりも安いものだ。それに僕の方が体の形を変えることに慣れている。試練を突破したら、君が王様に聞きたいことを聞いてこよう」

レレさんは胸をはった。

次の瞬間、私はレレさんの頬をひっぱたいていた。

レレさんは何が起きたのか理解できず、目を白黒させている。

「なんでそういう風に自分を大切にしない発言をするんですか。もっと自分の命を大事にしてください!」

「い、いやしかし。私は人殺しだ。それも理不尽な理由で罪のない妻と娘を殺してしまったんだ。大事になんてできるはずが……」

「うじうじとうるさい!」

自分でもびっくりするほど大きな声が出た。

「確かにレレさんは罪を犯しました。大罪です。最初に話を聞いたときは、奥さんと娘さんがかわいそうでたまりませんでした。

でも!レレさんは自分を押し潰すほどに反省しているじゃないですか!10年間人と話さず!発作に苦しみ続けて!それは並みたいていの苦しみじゃないはずです!

そういう苦しみを味わい続けてなお、レレさんは自分の罪は許されていないと思ってるんでしょ!それで今は十分じゃないですか!

悔やんでも奥さんと娘さんは帰ってこないんです。過去には戻れないんです。

だったら!今!前を向いて生きて下さい!

奥さん達の分まで、生きて下さい!」





気がつくとレレさんは泣いていた。

「ああ、そうしよう」

震える声でレレさんは答えた。

レレさんは涙をぬぐって顔をあげた。

レレさんの表情が少し明るくなったように感じた。


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