第16話 男の過去②

幾年か経ったとき、限界をむかえた。

借金取りが家へ押しかけてきたのだ。

私は娘の大学受験費を結局用意することができなかった。優しい娘だ、包み隠さず真実を話せば、大学受験をとりやめただろう。

だが、私は娘にそんなことはさせたくなかった。娘は将来の夢を持っていた。私と違い、娘は立派な子に育ってくれた。今、受験を止めたら絶対に娘は後悔する。大金が必要なのだ。

だから私は、金を借りにいった。

一度に大金を借りたい。そんなことを良しとしてくれるのがまともな所であるはずがなかった。私はきっと返せると思っていたのだ。私は株をやっていた。今すぐは無理でも、何年か後には投資している会社がもっと大きくなり、株の価値が上がるはずだった。……上がるはずだったんだが……その会社は潰れた。私の株は価値が上がるどころか無価値となった。借金の返済をするための金は株頼みだった。私は焦った。そうして焦っているところへ借金取りは何度もやってきた。

妻は何が起きているのか分かっていなかった。私が全てを秘密にしていたからだ。私は適当な理由を作って、妻に隠していた。だが、それももう限界に達していた。一つは借金返済の期限が。もう一つは私の精神が。

私は疲れきっていた。何もしたくなくなっていた。何もせずに寝ていたかった。しかし、そんなことが許されるはずもなく、私は日に日に追い詰められていった。

そして借金返済日の前日、私は妻を刺した。『もう終わりにしたい』そう呟いた後のことだった気がする。あの時、私は本当にどうにかしていた。もっとも大切なものであった家族を、私はあの日、壊してしまった。妻を刺したときの、あの気持ち悪い感触を私は生涯忘れない。強いショックで当時の記憶は途切れ途切れだが、娘の怯えた表情は頭に焼けついて離れない。

気がつくと私は血の海の中にいた。足元には妻と娘の死体が転がっていた。私は二人を見た途端、頭を抱えて泣き叫んだ。

とんでもないことをしてしまった。

とんでもないことをしてしまった!

どうしてこんなことに……!

考えても考えても答えは一つだった。

全て、私が悪かった。

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