第14話 ある人物
町から帰る途中の細い道で、私はある人物を探していた。
確かここら辺で会ったはずなんだけど……
記憶を頼りに目を動かす。
しばらくして、私はその人物を見つけた。
「こんにちは。今大丈夫ですか?
……あっ、大丈夫?」
敬語は使ってはいけないんだった。うーん、印象悪くなっちゃったかな。
その人物は口の端を少し上げ、虚ろな目でこちらを見た。
「大丈夫だよ。それと、話しにくいのなら敬語で話してもいい。普通なら話すときは敬語だからね」
その答えを聞いて私は確信した。この人は本当のカラ国について知っている。
今、私の目の前にいるのは前にトトと一緒に見た、不治の病にかかっている人だった。
「今の体調は安定しているのですか?」
様子をうかがうように私は聞いた。トトと一緒に見た時は、話しかけられる状態ではなかった。だが、今は落ち着いていて、普通に話せている。
「ああ、安定している。あれはね、発作のようなものなんだ。急に訪れる……」
その人は苦しそうに胸をおさえた。発作が起きた時の気持ちを思い出しているらしかった。
前に見た時は詳しく容貌を見ることができなかったが、その人は男で、綺麗な顔立ちをしていた。髪はしばらく切っていないのか、肩まで伸びている。遠くからでは男か女か分からない状態だ。そしてとても優しい声をしている。表情もそうだが、一緒にいて安心を与えてくれる人だった。
その男の人は胸から手を離すと再び話し始めた。
「私に話しかけてくれた人は本当に久しぶりだ。10年ぶりかな?他の人は発作の様子を見て怖がって近寄ってこなかった。
なぜ君は私に話しかけた?怖くはなかったのかね?」
「どうしても聞きたいことがあったからです。それに怖いとは感じませんでした。ただ、発作を起こしていた時のあなたを見て、悲しい感情がこみ上げてきたのを覚えています。失礼な言い方をなっていたら、申し訳ないのですが、その感情は悲しみとは言い切れなくて、哀れみだったり、苦しみだったり、そういった複雑な感情だったような気がします。」
「悲しい感情か……」
男の人は呟いて、少しの間、口を閉じた。
なにかを考えているようだったが、不意に顔を持ち上げ、決意したかのように話し出した。
「君はとても感受性が豊かなんだね。
君が悲しいなどの感情を抱いたのは本能でこの病の正体に勘づいているからだろう。
そして今、君は私に話を聞きに来た。
……君になら話してもいいだろう」
そこで、男の人は息を深く吐いた。
そして私を試すように見た。
私はじっと見つめ返した。この国について、一刻も早く聞きたかった。
「私が知っていること、考えていること、全て話そう。この国、カラ国の秘密について。」
男の人は話し始めた。
それは悲しく、残酷な話だった。
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