第13話 透明 Bパート
山に向かってナイトチェイサーを走らせているとセラムさんから通信が入る。
「勇気くん、怪人が動き出した。山から降りて今草原のほうにいるからもうすぐかち合うよ!」
「了解です。」
それから5分ほどしたが一向に怪人たちに出会う気配がないので一度停車して辺りを見渡したがそれらしき存在がいない。
「セラムさん、怪人どこにもいないんですけどどうなってるんですか?」
「それが急に姿が消えちゃったんだよ。今データベースで照合してるから怪人の正体が分かればなんで消えたか分かると思うからちょっと待って。」
「分かりました、あたりを警戒しながら待機してますね。」
「カッカッカッカ、あっしをお探しかな。そらよっと!」
急に体に衝撃が走り、ナイトチェイサーから吹き飛ばされてしまった。とっさに受け身を取り立ち上がるが辺りには何もいない。
「一体どうなってるんだ、確かに声が聞こえてナイトチェイサーから吹き飛ばされたのに何もいないなんて。」
「不思議だねえ、なんでだろうねえ。」
背後から声が聞こえ、とっさに振り向くがやはり何もいない。もしや今回の敵は怪人じゃなくて幽霊なのでは思い始めた時セラムさんから通信が入る。
「怪人の正体が分かったよ。名前はカメレニン、能力は透明化みたい!」
「透明化、通りで声がしても姿が見えないわけだ。変身!」
怪人の正体が分かったところで、生身ではどうしようもないので鞘からブレードを抜き変身する。
だが、変身したからといって見えないものが見えるようになるわけではないのでこれからどうしたものかと悩んでいると再びどこからか声が聞こえる。声の聞こえる方向から位置を割り出そうと耳を澄ますが常に移動しているらしく怪人を捉えることができない。
「カッカッカッカ、噂の騎士さんも姿が見えないあっしにはどうしようもないという訳かい。騎士さんこちら、手のなるほうにっと。」
カメレニンは姿の見えない自分にこちらが対処できないと確信したらしく、こちらをからかいながら攻撃してくる。背後から攻撃されたと思えば今度は左、そしてまた背後から攻撃される。姿の見えない敵にいいように攻撃され、反撃の糸口がつかめないでいると通信が入る。
「勇気くん、またまたバッチリなタイミングで新ロザリオができたよ!」
ドローンが高速で頭上を飛び去り、ロザリオを落としてくる。ロザリオには目をイメージしたデザインが施されている。
「こないだのヒャクアイを封印したのを浄化した奴で効果は視覚の強化だよ!」
落ちてきたロザリオをキャッチして即座にスロットに装填し、発動する。
「アイロザリオ、ロード、エンチャント、ヘッド」
アイロザリオの効果が発動し、視覚が強化される。草木や空の雲の動き、飛んでいる虫の動きすらスローに見える。視覚から得られる圧倒的に増えた情報量にパニックを起こしそうになりながら必死にカメレニンの姿を捉えようとする。
「どこだ、どこにいるんだ!」
強化された視覚をもってしてもカメレニンの位置が分からず、焦り始める。深呼吸をし、焦る心を落ち着かせて神経を集中させる。その瞬間、草が踏みつぶされる瞬間を目が捉えた。
「そこだああああ!」
草が踏まれた位置に向かって剣を横一文字に振りぬく。
「ギョヘエエエエエエエエエ!」
ブレードがクリーンヒットし、忍者の格好の緑色の肌をした人型のトカゲが吹っ飛んでいく。
「ようやく姿を現したな、カメレニン!」
「俺の透明化が見破られるなんて!だがまあ、見破られちゃあしょうがねえ、別にお前さんなんざ正面から倒してやる!」
そう叫びながら袖口から鎖のついた分銅を飛ばしてきた。咄嗟にブレードで防ごうとしたがそれが失敗だった。分銅はブレードに当たる直前に軌道を変え、ブレードに鎖を巻き付けてきた。
「ぐ!こっちの動きを封じるのが狙いか。」
「カッカッカッカ、その剣さえなけりゃあお前さんなんざ怖かねえ。さっさと寄越しな。」
カメレニンは鎖を引きブレードを奪おうとし、僕との綱引きが始まった。どうやら僕と奴との力は同じくらいのようでなかなか決着がつかない。だが幸いにもスロット部分には鎖が巻き付いておらず、何とかスロットにパワーロザリオをセットすることができた。
「パワーロザリオ、ロード、エンチャント、アーム。」
これでカメレニンとのパワーの均衡が崩れた。ブレードを思い切り振り上げると鎖を必死につかんでいたカメレニンは勢いよく宙に浮きこちらに突っ込んできた。
「チャージ、パワーファイナルブレイク。」
タイミングを合わせてブレードをバットのように降りぬき、カメレニンに必殺の一撃を叩きこむ。野球ならばホームランであろう軌道を描きながらカメレニンは飛んで行き、軌道の頂点で爆発した。
「やっぱり忍者は忍んでなんぼだああああ!」
「まあ、忍ぶ者って書いて忍者だしね。」
断末魔に突っ込みを入れながらブランクロザリオをセットして封印をする。
「ふう、何とか勝てたけどなんだか頭が痛いし気持ち悪いな。風邪でも引いたかな。」
「あー、それ眼精疲労ってやつだね。アイロザリオで視覚が強化されたけどそのせいで目が疲れちゃったんだよ。帰ったら蒸しタオルでも目に当てるといいよ。」
「そういうことですか、帰ったらそうします。」
目のこともあるのでナイトチェイサーをゆっくり走らせながら教会に帰り、封印したロザリオをセラムさんに渡し、目に蒸しタオルを当てたまま寝てしまった。
それから数日後。朝、目を覚ますと台所から良い香りがしてきた。部屋から起きだすと鼻歌交じりにアリアさんがクッキーを用意していた。
「おはようございます、おいしそうですね。」
「今日は読み聞かせの日ですからね、つまみ食いしたらダメですよ。朝食はちゃんと用意してますから。」
皿に盛られたクッキーに伸ばしかけた手を引っ込めて、代わりに朝食へと手を伸ばす。朝食を済ませた後、読み聞かせの準備を手伝っていると外から子供たちと師匠の声が聞こえて来た。
「神父様、おはようございます。」
「おはよう、皆朝からよく来てくれたね。もう少ししたら始めるとしようか。皆は先に礼拝堂に入っていなさい。」
「はーい、神父様。」
それからしばらく待つが子供たちが来ることは無く、結局集まったのは15人ほどだった。
「ほんとに全然集まらないんですね、子供たち。」
「そうでもないさ、アリアがお菓子を用意してくれるようになる前は0人なんてこともざらにあったからね。そのころに比べればまだましというものだよ。」
「そ、そうなんですか。」
どれだけ面白くない読み聞かせなのか逆に気になってきた。
「さて、それじゃあ始めるとしようか。勇気君、君も一緒に聞くといい。この世界で暮らしているんだからこの世界のことをもっと知った方がいいからね」
「はい、先生。」
先生と一緒に礼拝堂に入ると子供たちは礼拝堂のベンチに座っており、先生は祭壇に行って大きくかなり分厚い本を開いた。
「さて、では今日の朗読会を始めるとしよう。最初に今までの復習も兼ねてこの国の成り立ちについての章を読むことにしよう。」
ここから先はかなり長い話になるので簡単に纏めるとこういう事らしい。
僕たちが住んでいるこのサティエル教国が建国される前は小さな国が沢山あり、互いに領土を奪い合い長い間戦乱の時代が続いていた。
だが、そのことを嘆いた天の女神が若き勇者サティエルの前に降臨し、彼に戦乱の世を収めるための教えと知識と加護を与えたそうだ。その後サティエルは争っていた国々を巡り、争いを収め、国々を一つにまとめて人々から望まれ王となった。
王となった彼は二度と争いが起こらぬようにと女神からの教えを後世へと伝えるため天法教会を作り、教会を中心とした国を作ったそうだ。
僕自身も夢の国へと旅立ちかけたがギリギリ耐え切り、何とか朗読会は終わった。
ちなみに子供たちの半数は途中で夢の国へと旅立っていた。
「はーいみんなー、お疲れ様でした。お菓子を用意していますからならんでくださいねー。」
現金なもので夢の国へ旅立っていた子供たちは一瞬で現実に帰還し、列に並んでいた。
「勇気君、どうだったかね、この国の成り立ちについて理解できたかね?」
「はい、とても分かりやすかったです。」
「ホッホッホ、それは良かった。途中から船をこいでいたのは素振りをいつもの3倍にするということで許してあげましょう。」
「は、はーい。」
やはりばれていたか。この次の日、僕の腕が上がらなくなっていたのは言うまでもない。
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