独占欲

須藤

第1話


はじめてだった。こんなにも心を許せる友達ができたのは。

幼いころ、僕は体が弱くてあまり外に出なかった。そのせいか小学校に入っても中学生になっても人と話すのが苦手だった。

クラスでも孤立していて暗くて冴えない僕に話しかけてくれるのは隣のクラスのキラだけだった。

何がきっかけで話すようになったかは忘れたけど、学校では人気者で名前通りキラキラしていた彼が僕と二人で話す時だけ見せるその表情に魅入られていた。

彼の深くて暗いどこか違う世界を見ているような目が自分と似ているような気がしてならなかった。



高校生になってもキラは僕と仲良くしてくれた。でもある日キラは変わってしまった。


「ねぇ龍之介、昨日なんで先に帰ったの?」


今までそんなことをキラから言われたことが無かったので一瞬びっくりした。


「なんでって...昨日キラは委員会だったでしょ?」


今までもずっとどちらかに用事があればそうしてきたし、いつも通りにしただけなんだけど..


「冷たい奴だな~俺のこと嫌い?」


「え..どうしたの急に」


「別に好きなやつと一緒に居たいと思うのは普通だろ?友達なんだし...俺は龍之介ともっと仲良くなりたかったんだけど...」


こんなことを平気で言えるキラがうらやましい。恥ずかしくて死にそうだ。


「う、うん。じゃあこれからは待つようにする...」


体温が上がるのを感じる。自分と仲良くなりたいだんて言ってくれる人が僕にもできたんだ..


サンキューそう言ってニカッとキラは笑った。


「そういえばキラは一人暮らしだよね、どうして?実家そんなに遠かったっけ」


「えっ」


びっくりしたような表情をしたあとに気まずそうに目をそらされた。

あれ、聞いちゃだめだったかな..


「いつまでも親に頼ってたちゃダメかなって思って独り立ちすることにした..それに一人暮らしにあこがれてたんだよなぁ」



「そうなんだ...すごいな..僕にはできないや」


キラは優しいうえにしっかりしてるな、、僕にはとてもできそうにない。


「今日うちに遊びにくる?一人だと寂しんだよな~」


「いいの?お邪魔じゃなかったら行ってみたい..!!」


「もちろん、こいよ!」


キラの家はアパートだった。


「ごめんな、狭いとこで」


「ううん!すごい落ち着くし!」


ニコッと笑ってキラが僕の後ろにまわって抱き着いてきた。

突然のことで、えっ とつぶやいてしまった。


「んー?」


友達同士だったらこれくらい普通なのだろうか..


「いや、なんでもない」

それから10分くらいキラは離れてくれなかった。


「こういうのって友達同士なら普通なの?」

しびれをきらした僕はそう言ってしまった。


「どうだろ。俺はこうしてるのが落ち着くからしただけ。ダメだった?」


「ダメってことはないけど恥ずかしいよ」


「ほんとだ..すっごいドキドキいってるね」


口にだされたら余計に意識してしまう。


「ちょっと..もういいでしょ?」


こんなことはじめてでどういう反応をすればいいのかわからなくて突き飛ばしてしまった。


「あ、ごめん」


「ううん、俺こそ」


き、気まずい...今日は本当にどうしちゃったんだ...


「俺さ、龍之介のこと好きかも」


⁉⁉⁉


「それってどういう...」


「龍之介は?俺のこときらい?」


「嫌いじゃないよ...キラは僕にとってあこがれの人だし」

そう返すのが精いっぱいだった。キラのことは友達として好きだと思う。


「そっか、じゃあ俺と付き合ってくれる?」


「え...それはどうだろ。そういうのってよくわかんないし」


混乱のあまりあいまいな返事をしてしまった。


「あっそ、なら教えてあげるね」

キラは近づいてきていきなり僕の手首をつかんだ。


「なに?」

あまりに突然のことでびっくりしているとチュッと唇にキスされた。


「キラ...?」


「きもちわるかった?」


「きもちわるくはないけど...」


正直なにがなんだかわからなかった。なんて言えばこのなんともいえない空気から逃げ出せるのか、心臓がうるさくてなにも聞こえない。


「じゃあ龍之介も俺が好きってことだよ。つきあって、お願い」


なんでそうなるの?おかしいよ。でももうなんでもいい。早くここから逃げ出したい。

「わかった。でもごめん今日は帰るね」


僕は思いっきりキラを突き飛ばして部屋から逃げ出した。荷物もなにもかも忘れて。

家に帰り急いで自分の部屋に入ると母のどうしたの?という声も聞こえなかったことにして眠りについた。








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独占欲 須藤 @rukako0309

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