Data.21 初めてのフレンド

 ダンジョン『ハグルマの遺跡』からの帰路で誰かに襲われることはなかった。

 偶然人がいなかったのか、俺も強者のオーラをまとい始めたのかはわからなけど、無事メカロポリスに帰還することが出来た。

 安全な街に帰るまでが冒険ってね。


「さて、まずは戦利品の整理だな」


 ダンジョンには大量のモンスターが出てくる代わりに、メダルのドロップ率は控えめになっている。

 それでもザクザクメダルは手に入った。

 まっ、襲いかかってくる敵は全部倒してきたからな。


「とはいえ、ドロップしたメダルのほとんどはマテリアルか。即戦力はない感じかなぁ」


『マテリアルで生成できるメダルもチェックするにょん!』


 メニュー画面を切り替えてメダル生成のページへ。

 うーん、ダメだな。

 絶妙にマテリアルが足りてない物ばかりだ。


「必要素材のあと一つが足りてないってことが多くてもやもやするなぁ」


「そもそも一つのダンジョンだけで生成に必要な素材が揃うことがまれなんだよ。強いメダル……対人戦で活躍するようなメダルを手に入れるのには、それなりに時間がかかるのさ。僕のこの帽子みたいにね」


 ドロシィがメダルスロットから一枚のメダルを取り出す。

 それは黒い三角帽子が描かれたクロガネのメダルだった。


「やっぱり、ドロシィも持ってるんだな」


「も……ってことは、やっぱり君も?」


 俺もメダルスロットからコレクトソードを取り出して見せる。

 ドロシィは「わあっ」と声を上げる。


「全力進化がもう済んでるってことは、ルーキーコロシアムの前にクロガネを手に入れて、優勝したってことだね? いいなぁ、僕はそもそもルーキーコロシアムで優勝すらできなかったからなぁ」


「このメダルは、メダルガチャで手に入れた」


「あのやっつけ敗者救済措置で? それは運が良いねぇ。もしかして、チャリンがやたら君のことを気に入っているのは、クロガネのメダルを意図的に渡したからかい?」


『そんなことしないにょん! てか、出来ないようにされてるにょん! そもそもクロガネのメダルは特別だから、一部のスタッフしか詳しい情報を把握してないにょん!』


「へー、俺もそれは初耳だな」


『クロガネのメダルが何枚存在するのか、どうやって手に入るのか、どんな効果を持っているのか、いつ追加されているのか、すべては最重要機密なんだにょん。運営会社の創業スタッフは知ってるってウワサだけど、会社が大きくなってから作られた私は知らないんだにょん』


「多くのプレイヤーにとって、それを手に入れることがゲームを続けるモチベーションになっている最高レアリティのメダルの情報が、社内で共有されてないなんてねぇ。通りでアプデの内容もズレてくるわけだよ」


『くぅ……それに関してはぐうの音も出ないにょん……』


「まったく、ホビーアニメじゃあるまいし、メダルが本当に特別な力を持っているわけでもない。ゲームの中でレアなおもちゃってだけなんだから、しっかり共有管理してほしいものだねぇ」


『ぐぬぬ……』


 ドロシィはなかなか毒を吐く。

 運営側の人間としてチャリンは言い返せないだろう。

 ここは俺が助け舟を出そうか。


「でも、そういう扱いされてる方がワクワクしない? ドロシィの言うようにホビーアニメの世界に入ったみたいで。運営のほとんどの人間がその秘密を知らないブラックボックスならぬブラックメダルって」


「こっちはお金払って遊んでるんだよ。そういう話は設定に留めてほしいね。運営のほとんどの人間が詳細を知らないとされている謎のメダルっていう『設定』でね。本当に知らなくてどうするのさ」


 うーん、俺の助け舟沈没!

 反論のしようがないね!

 まあ、それでも俺は開発側にとっても未知の部分があるってワクワクするけどな。


 この科学世紀、オカルトなんてものは死滅してしまった。

 そんな世界の中で人知を超えた超常の存在と言えるのは、人間自らが生み出した電脳世界。

 そして、その住人である人工知能たち。


 深海探査、宇宙開発すら進んだ現代の中では、まさに最後のフロンティアだ。

 そんな最後のフロンティアで俺は楽しく遊ぶだけなんだけどさ。


「ま、僕はこのゲームのことなんだかんだ好きだから、これ以上は責めないけどね。未知の部分にワクワクというか、どうなってしまうのかわからないゾクゾク感は確かに感じるし。自分の好きなコンテンツが炎上しそうな時に似たあのゾクゾクをねぇ……」


『あはは……もう炎上からの謝罪はこりごりだにょん……。クロガネのメダルには確かに謎も多いけど、ちゃんと弱点もあるし、数もばらまかないようにしてるから、バランスを気にしてはいると思うんだにょん』


「そだね。このゲームはなみなみ水が注がれたグラスさ。こぼれそうでこぼれない。誰が頑張っているのか、表面張力が働いてるね。このギリギリ感がクセになる。そう、自分の好きなコンテンツが……」


『何回も言わなくていいにょん! 縁起が悪いにょん!』


「ふふっ、話してみるとおちゃらけた見た目の割に真面目すぎて、ついからかっちゃうんだ。また一緒に冒険しようよ。三人でさ」


 ドロシィがメニュー画面を開き、何か操作をする。

 すると、俺の方のメニュー画面が勝手に開いた。

 そこには『フレンド申請が届いています』と表示されていた。


「フレンドに登録しておくと、メッセージが送れるんだ。フィールドでは送ることも開くことも出来ないけどね。離れたプレイヤー同士の連携に使えちゃうからさ。でも、タウンエリアなら離れた街でもやり取りができる」


「わ、わかった。申請を受理しておいた」


「なに? 僕とフレンドになることが不満なの?」


「いや、会ったころはお互いケンカ腰だったから、また一緒に冒険したいって思える仲になったことに感動……みたいな?」


「あはは! ゲームなんてそんなもんだよ。つまらないことでケンカしても、楽しく遊んでればすぐ仲良くなれるツールさ。素晴らしい発明だよ」


「次はいつ頃ログインする? 今回ダンジョンに行ってわかったけど、やっぱりダンジョンは一人で遊ぶものじゃない。でも、ちょっと生成したいメダルが見つかってね。手伝ってほしいんだ」


「ふ~ん、別に今から遊べないなんて僕は言ってないけどな」


「そうか……って、え? 今から付き合ってくれるのか?」


「現代人の大半は暇人さ。その生成したいメダルが生成できるまで付き合ってあげるよ」


「本当か!? 助かる!」


「まあまあ、先輩を頼ってくれたまえよ」


 一緒に遊ぶ人が増えるとゲームはさらに楽しくなる。

 ドロシィは俺にとってチャリンの次に出来たゲーム友達だ。


「それで何を生成したいの?」


「この【ビームシールド・ドライヴ】っていうのがカッコよくってさ」


「ふーん、いいんじゃない? って、必要素材多いね!? これ結構時間かかるんじゃない?」


「やっぱダメか?」


「まあ、いいけどさ。僕にかかれば一瞬だよ」


 意外と面倒見がいいよな、ドロシィ。

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