Data.16 仮面の男
「あの~、俺の方はあなたの顔に見覚えがないのですが……」
仮面の男はフッと笑う。
「仮面をつけているのだから顔は覚えられんだろう。会ったことがあってもな」
「……はあ」
それはジョークなのか?
本音なのか?
天然なのか!?
「無論、俺もお前に会ったことはない。ただ、関りはある」
「それはどういう……」
「回転刃鎧獣シュレッドアーマディオ……だったか。あれを倒したのはお前だな」
「……!」
ついに見つかってしまった……!
というか、すぐに見つかってしまった!
俺があのレイドモンスターから手に入れたメダルを公開したのは、ルーキーコロシアムの決勝戦だけだというのに……。
『実はコロシアムの戦闘履歴は後から誰でも見れたりするにょん……。映像はもちろん公開されたメダルもバッチリにょん……』
そりゃ……バレるな。
謝るしかない!
コレクトソードの黒いオーラは残り続けている。
おそらく時間経過で消えるタイプだ。
剣の効果を封印されてる状態で戦って逃げられるわけがない。
「す、すいません! 急にモンスターが来たので倒しちゃいました!」
「いや、謝る必要はない。逃がした我々が悪いのだ。むしろ、迷惑かけたな。ルーキーが突然レイドモンスターに襲われれば、精神に異常をきたして強制ログアウトもあり得る。よくぞ勝った……と言わせてもらう」
「それは……ありがとうございます」
「メダルも奪う気はない。システムがお前の物と認めたのだからな」
ありがてぇ……。
でも、それならなんで俺に会いに来たんだ?
「なぜ俺がお前に会いに来たのか気になるか?」
「え、ええ……。なんかすごいプレイヤーさんみたいですし、俺なんかに何の用かなって」
「それを教えることは……できない。今は……な」
じゃあ、なぜ自分から話題を切り出したんだ……?
「お前の戦い方は粗削りすぎる。そのクロガネの剣頼りと言ってもいい。コロシアムもそうだった。とりあえずスキルを受け止めてから次を考えるという動きは、すべてが後手に回り常に不利な戦いになる」
「でも、それがコレクトソードの……」
「本当にそうだろうか? コレクトソードの効果は攻めている時には使えないのか? とにかく、今のお前に教えられる事はないな」
「く……助けてくれたのは感謝してるけど、そっちから話しかけてきて『教えることはない』は失礼なんじゃないんですかね?」
「そうだな、謝ろう。俺はこれで失礼する」
仮面のグリフレットは俺に背を向ける。
本当にこのまま帰るつもりか!?
「一か月後……」
「はい?」
「それまでにメダロシティにたどり着け。その時、お前とメダルの真価が試される」
「ちょっとちょっと! もう少し具体的なこと言ってくれ! 意味深なこと言っとけばカッコよく見えるわけじゃないぞ!」
「は~い、ストップっす」
食ってかかる俺の前にキャップを被った少年が立ちはだかる。
こいつの銃がケルベロスを撃った。
グリフレットと同じく、かなり腕の立つプレイヤーに違いない。
「グリフレットさんはこういう人なんすよ。悪気があるわけじゃなくて、かなりシャイなんす。ここに来るまでは君とどうやって話をするかずっと悩んでたくらいっす」
「じゃあ、話してくれよ!」
「あはは、もっともっすね。でも、グリフレットさんが話さないと言ったんだ。大人しく引き下がって欲しいっすね……俺としては」
「っ!」
思わず俺は後ずさる。
なんだ……ゲーム内で殺気を感じたというのか?
「このゲームすごいっすよ。感覚とか現実そのものっす。それだけ戦法も無限大っす。でも、戦いにおいて常に強い戦法は変わらない。自分の得意を相手に押し付けること……っす」
得意を押し付ける……か。
俺は受け身すぎなのか?
「まっ! とにかくグリフレットさんはあんたのことを気に入ってるっす! メダロシティに来いって言うのもあんたのためっす!」
「それはまあ、助けてもらったし信じるけど……」
釈然としないってのが正直な気持ちだ。
でも、メダロシティか……。
なんか大都会な響きだ。
謎に導かれて街をさまようのも悪くないかも。
う~ん、俺って前向き!
「じゃ! 一ヶ月後にメダロシティっすよ! そういうことで! ぴゅ~!」
そう言ってグリフレットとハルトはぴゅ~っと去っていった。
グリフレットの方はまだ何かを言うか言うまいか悩んでいた気もするが、どうせ言わないだろうから気にしない。
「チャリン、メダロシティってなんだ?」
『ぷは~! やっと話せるにょん! メダロシティはこの大陸一の大都市で、場所は大陸の中心だにょん!』
「確か、各初期村は大陸の端にあるんだったな?」
『そうだにょん。中央に近くなるほど大きな街も増えるにょん』
「じゃあ、このままメカロポリスに向かえばメダロシティも近づくってことだ」
『そう言うことだにょん!』
そうと決まれば進むのみ。
脇道を戻って元の道へ。
メカロポリスに一直線!
途中、3パーティーほどにメダルを強奪されそうになったが、速攻で斬り伏せた。
危ない危ない。
このゲームは素晴らしい代わりに、素晴らしく民度が低いことを忘れていた。
ま、でもこのスリリングな感じが癖になってきたかな。
● ● ● ● ● ● ●
「グリフレットさん、あれで良かったんすか? 本当はあいつに……」
「いい。あのままでは足手まといになるだけだ」
「そうっすかねぇ。そこらへんのよりは根性もセンスもありそうなルーキーだと思ったんすけど」
「ハルト、少し前はあいつに獲物を取られて憤っていたというのに、やけに気に入っているじゃないか」
「そりゃ、人間顔を合わせる前と後じゃ印象も変わるっすよ。案外いい奴だなって」
「そうか。なら、これからに期待だ。ただ、他にも声をかけたい者はいる。急ぐぞ」
「はいない、本当はその口下手を直した方がいろいろ早いって思うんすけどね」
「フッ……生まれ持った癖を直す方が、時間がかかるに決まっているだろう。比べるまでもない単純な話だ」
「それは冗談なんすか? 本音なんすか? 天然なんすか?」
「む……どういうことだ?」
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