Data.6 ライン際の攻防

 チャリンの言う穴場……それは加護の森を抜けた先にあるミンディア平原という場所だ。

 そこは一部がPK禁止エリアになっている。

 いや、なってしまっているらしい。


『運営は仕事が雑なんだにょん! だから、加護の森の隣にあるミンディア平原にも少しPK禁止エリアのラインがかかってるにょん! でも、それで不利益をこうむるプレイヤーはいないので放置されてるにょん!』


「そこは強いモンスターが出るのか?」


『加護の森よりは間違いなく強いにょん! その分メダルもレアな物が手に入るにょん! でも、無理は禁物だにょん! 森の隣のエリアと言っても岩山で区切られているから本来初心者が行ける場所じゃないにょん!』


「岩山? 通れるの?」


「実は頑張れば登れる高さなんだにょん……。たまに好奇心旺盛な初心者が岩山を越えてその先のモンスターにキルされてるにょん……」


「なるほど、運営は仕事が雑だ」


 問題の岩山は確かに『登れそう』と思う高さだった。

 『誰でも登れる』とか、『登れない』ではないのが絶妙に冒険心をくすぐる。

 上からの景色を見たくなるな。


「ハイジャンプの使いどころだ」


 ぴょんと跳んで、少し登って、またぴょんと跳ぶ。

 やっぱこのメダルは良い拾い物だった。

 あっという間に山頂へとたどり着いた。


「キィィィィィィーーーーーーッ!!」


「うわあああああああああっ!!」


 いきなり巨大な怪鳥が襲い掛かってきた!

 とっさにコレクトソードを取り出し、本能のままに斬る。

 スパっと小気味よい感覚とともに怪鳥は縦真っ二つに分割された。

 落ちてきたメダルを拾い、一息つく。


『お見事~! あいつに襲われると大抵のプレイヤーは一発で空に連れていかれて落下死だにょん! 仮に避けても森の方まで追ってくるから大抵やられるにょん!』


「殺意が高すぎる! 登りきって油断するところに空からモンスターとか、もはや罠じゃないか!」


『ゲーム制作者ってのはプレイヤーに意地悪したくなる種族なんだにょ~ん!』


 まったく……ひやひやさせてくれる。

 まあ、だからこそ切り抜けた時の達成感があるとも言えるが。

 あの鳥が落としたメダルはMメダルの【怪鳥の風切羽】、レアリティはシルバーだ。

 チャリンの言う通り、こっちの方が歯ごたえがあって美味いモンスターがいるようだ。


「乗り込むぜ、ミンディア平原!」




 ● ● ● ● ● ● ●




「これは……生まれて初めて見る景色だ」


 ミンディア平原は地平線まで広がる草原だった。

 そよ風で草が揺れて波打つ光景は、まさに草の海原だ。

 現実でここまで広い草原はなかなかお目にかかれない。


「戦いだけが冒険じゃないってのは本当だな」


『思う存分眺めるといいにょん! ルーキーコロシアムまでは時間があるし、焦る必要はないにょん!』


 チャリンのお言葉に甘えさせてもらおう。

 武器をしまって草原に大の字に寝ころぶ。

 ここの草は青臭くない。微かにミントのような爽やかな匂いがする。

 昼寝にはもってこいだ……。


 ドスン……ドスン……。


 鈍い音とともに大地が揺れる。

 気になって目を開ける。


「ん……?」


 視界に捉えたのは、角を持つ巨大なウサギ型モンスター『オオツノウサギ』だった。

 なるほど、草原がデカいとそこに住むモンスターのスケールもデカくなるんだなぁ……。

 って、寝てる場合じゃねぇ!


「うわああああああっ!?」


 ウサギの角で危うく腹を貫かれるところだった!

 しかし、こいつは倒し甲斐がありそうだ。

 コレクトソードを抜き、突進してきた角を受け止める。


「硬い! 流石にこの角には刃は通らないか!」


 でも、その柔らかそうな体ならどうだ?

 突進を受け流して【ハイジャンプ】のメダルを発動。

 ウサギの背中に飛び乗り剣を突き刺す!


 図体がデカいだけあって一撃では倒せなかったが、何度も刃を当てることで何とか討伐は完了した。


「ふーっ! これは……楽しいなぁ! 良い勝負だった!」


 手に入れたメダルはMメダル【獣の一本角】、レアリティはシルバー。

 こっちはMメダルもシルバーが基本だ。

 やる気も段違いに上がるってもんよ!


 それにこの世界での動きにも慣れてきた気がする。

 ファンタジー世界がモチーフなだけあって、このゲームのプレイヤーはメダルなしでも現実よりずっと身体能力が高い。

 走る速さやジャンプの高さ、スタミナの上限、打たれ強さ、力の強さ……。

 今まで違和感があったけど、今は馴染む。実に馴染む。


『お疲れ様だにょん! いやぁ、カッコよくて思わず見惚れるシーンもあったにょん!』


「それはおだて過ぎ」


『ノンノン! こんなに純粋に戦いを楽しむ人は初めて見たにょん! 野性的で素敵だにょん!』


「ちょっと照れるなぁ。でも、ありがとう。ここは楽しい狩場だ!」


『楽しんでもらえれば幸いだにょん! ここは私とシュウトの秘密の狩場にするにょん!』


「ああ、ルーキーコロシアムまでここで鍛えるのが正解だな。さて、ヒールポーションを使えばまだまだ戦え……」


 ドドドドドドドドド…………。


 また地鳴りだ。

 さて、次の相手は誰だ?

 今度もカッコよく倒してやりますか!


 コレクトソードを正面に構える。

 だが、その時にはもう遅かった。


 ガギン……ッ!


「ぐがあああっ!?」


 剣が何か硬い物とかみ合ったかと思うと、俺の体は遥か後ろの岩山まで吹っ飛ばされていた。

 体の中から嫌な鈍い音がする。

 それと同時に二回金属が砕けるような音が聞こえた。


「メダルが……砕けた……!?」


 身を守るアーマーメダルである【毛皮の鎧】と【木の盾】が破壊されている。

 このゲームにはメダル破壊の概念もあるのか!

 低レアリティとはいえ、メダルを失うのは気分の良いものじゃないな……。


 ありがとう、俺の身を守ってくれて……。

 この二枚がなければ死んでいた可能性だってある。

 それほどまでに、俺のダメージは大きい……!


「コレクトソードを手放さなかったことだけが救いか……」


 流石はクロガネ。

 あの衝撃でも刃こぼれなどはない。

 そもそも、あの攻撃の正体はなんだ……!?


『シュウト! 死んでない!?』


「ああ、問題ない」


『ありがたいことに岩山まで飛ばしてくれたにょん! 早く逃げるにょん!』


「まだ戦える! 少しぐらいヤバい敵とも戦っとかないとな……」


『あいつは少しじゃすまないにょん! なんてたってレイドモンスターなんだから!』


「レイド……モンスター?」


『複数のパーティで戦うことが前提のモンスターだにょん! そのうえ、あいつの場合は名を冠するネームドモンスターでもあって、普通よりも討伐難易度が格段に高いんだにょん! 本当はこんなところに出現しないはずだにょん! わけがわからないにょん!』


「なるほど……な」


 それならあの重い一撃も納得だ。

 やられても仕方ない。

 自信を失わずに済んでありがたいぐらいだ。


「流石に逃げるか!」


『それがクールでカッコいいにょん!』


 漫画みたいにめり込んでいた岩肌から脱出し、ハイジャンプを使って岩山を登る。

 大活躍だな、このメダル。

 落としてくれたハーブラビットに感謝だ。


「よし! 森側に戻ってきた! もう大丈夫だな!」


 俺はこの時、無意識のうちにフラグとなるセリフを吐いたことに驚いた。

 まさか俺の口からこんなあからさまな言葉が……。


 ドドドドドドドドド…………ドガアアアアアアンッ!!!


 岩山を粉砕し、そいつは現れた。

 メニュー画面が勝手に開き『WARNING!』の文字が表示される。

 同時に敵の名前も表示された。


 <回転刃鎧獣 シュレッドアーマディオ>


「なるほど、甲羅についた無数の刃で敵を裁断するシュレッダーのようなアルマジロか……」


『のんきにネーミングの意図を探ってる場合じゃないにょん! ああ……もう終わりだにょん……。せめてメダルが破壊されないような死に方をするにょん……』


「ああ、わかってる。こいつと本気で戦った後にな!」


 冷静に観察してみると……こいつは手負いだ。

 ここに来るまで『何か』と戦っていたんだ。

 そして、命からがら逃げてきた……。

 ならば勝機は十分にある!

 俺のメダルは壊させねぇ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る