尾崎さん

 尾崎さんは活発な写真少女って感じの人。とにかく明るくて朗らか。


「ミサトは写真小町ですよ」


 これって自慢してる訳じゃなくて、笑い話に近いもの。『写真小町をさがせ』っていう写真コンテストがあって、尾崎さんは頼まれてモデルになり入賞したそうなんだけど。


「ミサトは写真小町って美人を探すコンテスト思ってたんですが・・・」


 コンテストで競われたのは、カメラを構える女の子。そうねぇ、いかにカメラを美しく構えられるかだったみたいで、


「ミサトの顔はカメラで隠れて写ってなかったのです」


 でもね、でもね、写真小町って呼んでもイイぐらいに可愛いよ。


「それにしても西川流のB4級って凄いね」

「凄くありません」


 この辺の級位感覚がわかりにくいのだけど、写真教室に通う生徒の目標はB3級らしい。尾崎さんによればB5級が中学校卒業レベル、B4級が高校卒業レベル、B3級が大学卒業レベルと考えれば良いって。


 だから写真教室に通えばB4級ぐらいは殆どの人が取れるんだって。しかしB3級となると手強くて、取れずにやめちゃう人も多いし、取ってもB2級まで目指す人は少ないそう。


「B4級なんて、写真教室に通った事があります程度ですよ」


 野川君の指導ぶりも聞いてみたのだけど、


「あれはそう簡単には出来ません」


 とにかく他の部員との差が大きいから、野川君の評価会になっちゃうんだけど、まず褒めるのよね。目一杯褒めまくった後に、


「この辺が惜しいね。もうちょっと気を付ければ、もっと良くなるよ」


 エミもそんなに良く撮れてるのかと嬉しくなったけど、


「ミサトがやったら、欠点の羅列のオンパレードになってしまいます」


 いわゆる褒めて伸ばす指導なのは、わかるけど、どれぐらい伸びてるのかな。


「藤堂副部長は口癖のように下手だ、下手だと仰いますが、かなり撮れてます。アキコだって入部した時に較べたら見違えるようです」


 そんなに上手なんだ、


「エミ先輩は悔しくありませんか!」


 尾崎さんも降格問題と野川君と宗像君の因縁話を聞いたことがあるみたいで、


「野川部長に頑張ろうって言ったら、来年頼むと言うんですよ」


 野川君は再昇格条件の交渉をしたみたいで、降格回避条件と同じに持ちこんだらしい。つまりは写真甲子園の初戦審査会突破。


「ミサトと部長のいる今年の方が有利じゃないですか。それに来年になってもミサトとアキコの二人じゃないですかって頑張ったんですが・・・」


 野川君は来年までに南君を育て上げて、来年の新入部員に尾崎さんの様な人材が入って来るのを期待するって言ったんだって。


「そりゃ、来年になれば宗像さんたちはいなくなりますけど」


 尾崎さんも、藤堂君も、今年は指をくわえて見送るのに切歯扼腕してるのは良くわかった。エミなんか今年しか参加するチャンスがないんだもの。それだけじゃなく、なんとか野川君を盛り立て、勝たせたい思いが強いのも良くわかった。


「尾崎さん。エミもなんとかしたい気があるけど、なにかアイデアないかな」


 尾崎さんもしばらく考えていましたが、


「とにかく時間と人材が・・・」


 尾崎さんが言うには、写真のテクニックも、短期間で上げるのは容易じゃないんだって。ましてや校内予選の相手はB2級とB3級のチーム。こっちはB3級とB4級とド素人。この差を詰めるには・・・ちょっと思いついた事があって、野川君に相談。


「提案だけどコーチを頼むはどう?」

「コーチ?」

「そうよ、野川君じゃ無理ならコーチに教えてもらったらイイと思うの」


 野川君が疑わしそうに。


「誰を頼むつもり?」

「オフォス加納」

「おいおい冗談だろ。オフィス加納のプロがアマチャア、ましてや高校生のコーチなんてしてくれるはずがないよ」


 エミもプロは無理と思うけど、あそこのお弟子さんの入門条件は西川流の師範と同等クラスってアカネさんに聞いたことがあるんだよ。


「ああ、それは有名だけど、それでもどうやって頼むつもり」

「アカネさんと知り合いだから、頼んでみようと思うの」

「アカネさんて、あの渋茶のアカネの泉先生だよね」


 ついでにタケシさんも知り合いだと言ったら、


「慈愛の伝道師、青島健!」


 絶句されちゃった。でもお弟子さんでも来てくれたら、レベルアップは大いに期待できるって野川君は言ってくれた。


「コーチ料は払えないよ」


 そこもネックだけど、ボランティアでやってもらうしかないのよね。


「それでも、もし本当に来てくれたら活路が開くかもしれない」


 ただし学園内での指導は難しいから、班研究の時のように野川君の家を使わせて欲しいと頼んだら、


「それは必ずなんとかする」

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