東京
目的の高速道路出口。
ここからは徒歩となる。
郊外とは言えここは東京だからね。人口密度はけっこうなものだから、それに比例してゾンビもそれなりに存在していると考えたほうが自然だ。
車のライトは光センサーなのか勝手に着いてしまうし、電動モードで走ったとしてもこの静けさ、タイヤの摩擦音とそれの建造物への反響音もなかなか大きい。
流石に気付かれるだろう。北海道の昼間の時のようにコッソリ移動は通用しまい。
朝になるのを待ってから行動すればいいのでは?……と思うかもしれないが、僕はそうは判断しなかった。
ゾンビたちの知能や判断力はかなり低下しているとは言え、経験上、五感……特に視力、聴力は通常の人間と同等と思われる。故に、さすがに目に着いたものには反応するからして、昼間に行動したほうが目立ってしまうし、遠くからでも認識されてしまうと考えたからである。
ちなみにゾンビの生息数(?)ははっきりと確認されていない。
生存者コミュニティ同士の情報共有では、元の人口の5%くらいがゾンビ状態になっていると考えられているようだ(ちなみに、昏睡状態にもななかった健常者も5%程度とかんがえられているらしい)。
しかしながらその割合は地域によってバラつきがあるらしく、都会ほど絶望的な数値になっていると考えられている。理由は、生存者コミュニティで大きな都市に存在しているところはほぼ無いからだ。イコール、都市部は壊滅していると考えるのが普通だろう。
例外として、大都市では名古屋にひとり、何か理由があってコミュニティに属さずに生活している者がいると小耳に挟んだことがあるが、ちょっと信じられない。どんな超人なのだろうか。
まあ何にせよ、視界の開けた昼間より、ゾンビどもの活動時間帯とは言え暗視ゴーグルによる視界のアドバンテージがある今……夜中に自宅を目指すことにしたのだ。
しかも、天気は曇天模様。月の光もほぼ届かない今夜は、最高のシチュエーションと言えよう。
高速の出口から自宅までは5kmほど離れている。
慎重に進んだとしても、2時間程度で到着できるであろう。
順調に行けばだが。
そこまでの道のりは車でなら何度か通ったことがあるのだが、徒歩は初めてのことである。
「へえ、こんなところに牛丼屋があったのか」
独身時代に散々利用したチェーン店を見つけた。大好物だったのだ。
そう言えば、初めて嫁と大喧嘩したのもこの牛丼屋の件だったな。
まだ付き合いだして間もない頃、妻は食べたことがないと言うのでドヤ顔で連れて行ったところ、「私が作ったほうが美味しいよ」と言われてしまったのだ。
いま思えばどうでもいいことなのだが、当時は自分のセンスを否定された気がしてしまい、口論に発展してしまったのだ。
まあ、いまとなってはこれも良い想い出だな。
しかし、この店を利用することはおそらくないだろう。
理由は、言わずもがな。
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