陥落
「仕方ないなあ。。。」
こうなったら、大放出するしかなかろう。
僕は次々と窓から食料をポイポイ投げ出した。
始めの頃は躊躇してた犬たちだが、段々と車の外にまかれた食料に群がり始める。
これで、ここにある程度の食料があるのにも関わらずあえて親子犬から奪おうとするヤツは流石にいないだろう。
とりあえずは一安心である。
もしこれでも親子犬から奪おうとするヤツがいたなら本当に射殺してやったかもしれない。そんな外道は犬畜生ってもんだわ。
……まあ、こいつら元々犬なんだけど。
そんなしょうもないひとりボケツッコミをかましながら後部座席の食料を大放出したのだが、そこにあった食べやすい食料はアッと言う間に無くなってしまった。
そりゃそうだ。休憩の際に自分ひとりがサッと食べれそうなものを少数後部座席に用意しておいただけで、後はトランクの中なんだから。
あー、わりーな。こんだけしか無いわー……と思いながら窓越しにワン公どもを見る。
……なんじゃコレ。
めっちゃ見られとるやん。
めっちゃ尻尾振りまくっとるやん!
きゅう~ん♡とか言うとるやん!
みんな目がキラキラしとるやん!
どうやら僕は、ワン公どもに「この人、いい人」認識をされてしまったらしい。
そう言えば、このワン公たちは野良犬一世。元々飼い犬だ。
これが野良犬二世以降とかになり人間の温もりを知らない世代になれば非常に危険な存在たりえるかもしれないが、こいつらはつい1年弱前までは飼い主に可愛がられ大事にされていたのだ。それを思い出させてしまったのかもしれない。
僕に集まる期待の視線が痛い。
そんな目で僕を見るな。。。
「あーっ! わかったよ!」
僕は意を決してドアを開けて車から外に出た。
そして車の後ろにまわりトランクを開け、缶詰をいくつか取り出した。
それを見たワン公たちの目に輝きが増す。
実家で飼って猫のミー助は缶詰を見せると大喜びして纏わりついてきたのを思い出した。
同じ味のカリカリフードの毎日、時々飼い主が気まぐれで買ってくる缶詰のウェットフードの美味いこと。
猫と犬の違いあれど、このあたりの感性は同じ程度の知能を持った動物だから変わらないのだろう。
僕は次々と缶詰を開けていき、地面に並べる。
ワン公たちは次々とそれらに走り寄り、ブンブンと尻尾を振りつつ、うまそうにがっつき始めた。
可哀想に、本当に餓えていたと見える。
今の世の食料事情、人間やその保護下にある動物達にとっては、この缶詰のように長期保存可能の食料は問題ない量があるとは言え、それが当てにできない生き残って野生化した動物たちにとっては、やはり相当厳しいもののようだ。
縁石に座り、ワン公たちを眺めるながら。ふと思う。
僕のこの行為に、意味はあるのだろうか。
このワン公たちは今日の飯にありつけたのは良いが、明日の飯の保証はない。
連れて行くわけにはいかないからな。
僕は自己満足の為、たった数日彼らの寿命を延ばしただけなのかもしれないのだ。
そんなことを思いふけっていると、満足したのだろうか。例の親子が近づいてきた。
危険な感じはしなかったので、僕は母犬の頭を撫でてやった。
なんか懐かしいな、この感じ。
「ははっ、くすぐったいぞ」
ペロペロと僕の頬を舐める母犬。
それを見た子犬たちも、後ろ足で立ち上がって必死に僕の腕を舐めはじめた。
彼女たちならではの感謝の気持ちなのだろうか。
少々衛生的な問題はあるが……まあ悪い気分ではないな。
僕は、気が緩んでいた。
この親子の相手に集中しすぎた為、他のワン公たちの動向の把握が疎かになっていたのだ。
「やめろっ! やめてくれ!」
ひーっ!! くすぐったい!
僕は今、数体のワン公に飛びつかれて絶体絶命の状態にある。
奴らの開かれた口は、吐いた臭い息が顔にかかるくらいの至近距離にある。
必死に抵抗し引きはがそうともがくもがくが、奴らの感謝の猛攻の前には長く持ちそうになかった。
そして、ついに……
「う……うわあぁぁぁぁぁっ!!」
数分後、顔中ワン公たちの臭い唾液まみれ、全身は毛まみれとなった僕が、息も絶え絶えで地面に転がっていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます