ホテル

白ラムネ

短編

「いきなり降ってきましたね」

「これじゃあ、会社に帰れないな.......」


俺と会社の先輩である高橋さんは取引先から帰る途中ににわか雨に当たっていた。

終電ギリギリまで打ち合わせをしていたため帰ることができなくなっていた。


「先輩、終電が失くなりました.......」

「ホントに!?マジかぁ........」


俺達はため息をつく。


「鈴村君は会社に連絡して、自分は近くのホテルを探すから」

「は、はい!わかりました」


俺は急いで会社に連絡して部長に雨で終電を逃して帰れなくなったことを報告する。


「部長は何て言ってたの?」

「今日はどこかホテルを探して、明日の朝に資料を持って来いだそうです」

「予想通り、でも残念ながら近くにビジネスホテルは無いわ」


先輩はまたため息をつく。

諦めて俺達は泊まれそうなところを探すために歩き出す。


「あれ?」

「どうしたの?」

「あそこってホテルじゃないですか!」

「いや、待って鈴村君!」


俺は走り出してそこに向かう。

入り口までつくと俺は固まった。

先輩も息を切らして追い付く。


「はぁ、はぁ、君も若いなぁ........」

「先輩、ここって........」

「え?」


俺達は二人で固まった。

そこはラブホテルだったのだ。

俺は少し迷ったが泊まるところが無い以上、泊まるしかない。


「先輩行きましょう」

「本当に言ってんの!?」


驚く先輩をよそに俺は先輩の手を引っ張ってホテルに入った。

受付はビックリしていたが、ニヤッとした後に部屋に通してくれた。


部屋に入る。

大きなベットに艶かしい匂いが充満する。


「先輩は先に風呂に入ってください」

「鈴村君が先でいいよ」

「いいや、先輩に風邪引かれたら困るので」

「じゃあ、一緒に入る?」


先輩が真剣な顔で俺を見ていた。


「な、何を言ってるんですか!?早く入ってください!!!」


先輩は笑いながら風呂に入っていった。

心臓がバクバクしていた。


シャワーの音が響く間に俺は先輩と自分のYシャツを乾かす。

体の火照りを雨に濡れた体を冷ましていく。

数分後、先輩が風呂から出てきた。

バスローブ姿でほどよく濡れた髪。

俺は不思議と目を反らせなかった。


「早く入らないの?」

「す、すみません」


俺は先輩に不思議そうな顔をされながら風呂へ直行する。

不可解な邪念を洗い流す。

そして、すれ違い様に香った先輩と同じシャンプーの匂いを感じる。

俺は頭が混乱していた。


「そんなことはない、これはダメだって......」


俺は胸を叩き、体を洗い流した。

そして、先輩と同じバスローブを着てベットに向かった。

先輩は打ち合わせで疲れたのか寝息をたてていた。

俺は先輩と背中を合わせるように寝る。

先輩の暖かい体温を感じていた。


朝、鳥のさえずりで目を覚ます。


「だいぶ寝ちゃったな.......」


俺は意識がハッキリしてくると違和感に気付く。

先輩が俺に胸を押し当てながら抱きついていたのだ。


「せ、先輩!?」

「ん、あ、鈴村君おはよう」

「おはようじゃなくて、ちょっと......」

「ああ、ごめんごめん、クセで」


後から聞いたことだが先輩には抱きつき癖があるらしい。

また不意にドキドキさせられてしまった。


俺達は乾いた服を着てホテルを出た。

相変わらず受付の人がニヤニヤしていた。

こっちはそれどころじゃないってのに.....。

俺は一人ため息をつきながら先輩の後ろを歩いていく。


「さあ、今日も頑張りますか」

「先輩の方が若いじゃないですか」


先輩は屈託の無い笑みをしながら歩き出した。

何とも言えない感情に襲われた。


この不思議な気持ちに本当に気付くのはもっと後になるかもしれない。





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ホテル 白ラムネ @siroramune

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