誰が為に送る言葉たち
根本仁
街
心の中に溜まっていく黒くくすんだ感情を言葉として吐き捨てる
吐き捨てられた言葉は群衆に踏みならされて統率の取れた同調圧力となっていく
同調圧力は都市を作り出し一つのパラノイアが生まれる
許されるのならば考えることを放棄して死んだように生きていきたい
そう吐露した若い青年は深夜2時の暗闇に殺された
毎日猥雑に使い込まれた言葉は路地裏の吹き溜まりに身を寄せ合うようにして
街行く人々を恨めしげに睨みつける
唯一意味を持ち続けたのは妖しく光を反射する血濡れた弾圧や非難だった
善い人間でありなさいと教えを説いた恩師は売春で捕まった
善い人間であり続けるという事はつまり断頭台に立つという事だ
生き急ぐくらいなら泥にまみれたしみったれた人生を送る方がマシだ
歓楽街のネオンは官能的な空間を作り出して人を誘き寄せる
そこで貪られる人たちは奴隷船のような満員電車よりも不憫に見えた
人を好きになれなかった彼女は夕焼けで茜に染まる美しい校舎で一人首を吊った
一人の人を愛していた彼は想い人を想う重圧に耐えきれなくなって心中を図った
彼らの最期を知る由もなく街は今日も平穏を運営する
切り張りされた平和の上に僕らは今日も立っている
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