色褪せた街
紫 繭
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もう、ボクにはこの部屋にあるものからは、何も感じられない。それは、郷愁と哀愁とをボクに押し付けていく。白と黒のツートンカラーの部屋着がボクを部屋に際立たせている。
揺れる純白のカーテン。隙間から顔を覗かせる満月。視界の隅に映るチェスのボード。
なんだか、月明かりが、恋しいや。
色の通わない、真っ白な細い手が、カーテンを掴んだ。
カーテンレールが、部屋に乾いた音を落とした。窓枠の額縁に真っ白の桜と、真っ黒の太い幹が映し出される。
机に手を伸ばした。景色を瞳孔に収めたまま。こつんと手の甲に、何かが触れた。
机上を見ると、半円を描くように、ゆっくりとポーンが転がっている。宵闇には目立たない、黒の駒。
今度はしっかりと、ペットボトルを握りしめた。パッケージに大きく『天然水』と書かれている。真っ白なシーツの上で、淡い影が躍った。
喉を影の重みが通り抜けていく。舌ではやけに、無機質な味が主張していた。
時計の針は、何周したのだろう。ただ、ぼんやりと、窓の外を眺め続けた。時折、柔らかな風が吹き抜けて、私の頬をさらっていった。
そして、その夜、最後に見たのは一輪の、真っ白な花弁が落ちていく光景だった。
それは、今でも瞼の裏側に灼きついて、離れない。
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