いつかの日

@onigiri_boki

いつか

その日はお休みの日だった。学校は無いしバイトも無い。宿題もなければ特段家事で手伝う事もない日だった。

9:30に目が覚めた。

カーテンを開けて、少し目を細めていつもと同じ景色を見る。

気温は陽気の中に涼しさを感じるくらい。

風が少し吹いた。

少し秋の香りがして夏ももう終わりだなぁと思った。

こんな日だから1人で出掛けようと思い、風呂場でシャワーを浴び、洗顔をして、脱衣所で体を拭いて髪を乾かす。

食パンをオーブンレンジで1分半。

少し温まって水分が飛ぶくらいが丁度いい。

火をつけて熱したフライパンにオリーブオイルをひき、卵を落として固くなりすぎない程度で加熱を辞め、目玉焼きを作る。

食パンを2つ折りにして目玉焼きを挟んで食べる。飲むヨーグルトを食後に飲んだら朝ごはんは終わり。

今日は少しだけ遠くのカフェにお出かけする。

歯磨きをして、パジャマから洋服へ着替える。

古着屋で買った紺色に白い水玉模様のシャツに黒いスキニー、くるぶしソックスと黒とオレンジのスニーカーに身を包んだ。

眼鏡をかけて、イヤホンを装着。

お気に入りのトートバッグの中にはお財布とカメラ、本。家の鍵は置いていこう。

ドアを開けて外に出る。

母親のいってらっしゃいの声が聞こえた。

いってきますと返事をして歩きだす。

つい最近までの暑さは身を隠し陽気な気温と少し冷え始めた風が心地よかった。

ポケットに入ってるスマホを取り出しお気に入りのシャッフルリストをかける。気分じゃない曲を飛ばしてご機嫌に歩き出す。

通学路を逸れて違う駅、違う街。

SNSで見た少しオトナな雰囲気のカフェ。

入って右、木のテーブルで窓側の席にトート

バッグを置き、財布を取り出す。

頼むのはホットのカプチーノ。

ミルクとコーヒーが別で貰えるカプチーノ。

席に運んで座る。熱いコーヒーをかき混ぜながらミルクをいれる白と黒の渦が出来、やがて灰色になる。

昨日買った本を開いて、「全てのものに世界はある」というフレーズが目に入る。

カプチーノを見る。まだ熱いカプチーノの湯気で眼鏡が曇る。眼鏡を拭いて1口飲む。まだ熱かった。

この店を知ったSNSの投稿を思い出す。その人もカプチーノを頼んでいて、熱いコーヒーの真ん中にミルクを入れコーヒーの中でミルクが変化していくのを動画にして投稿していた。

コーヒーとミルクにも世界はあるんだなぁと思いながら本を読み進める。

この日はシャッフルリストが良い仕事をしたおかげが2時間ほどカフェに滞在した。スマホの時計は13:45を示していた。少し残したカプチーノはもう冷え切っていた。

冷え切ったカプチーノを飲み干し外に出る。

今日はパスタの気分だったから近くのイタリアンを検索した。

マップによると550m先に本格イタリアンのお店はあるらしい。

入るとお昼時だからか店内は8〜9割程客が入っている状態だった。

おひとり様のため待ち時間はなかった。カップルがこっちを見てなんか言ってるが気にしない。

トマトスパゲティとカプレーゼを頼んだ。

店員の目には僕が相当なトマト好きに見えたらしく他のトマト料理もオススメされたが、そこまで食べれる程の胃袋はないよと断りを入れた。

カプレーゼはトマトの酸味とチーズのまろやかさがオリーブオイルによって絶妙にマッチしていて美味しかった。

カプレーゼから2分程遅れて来たスパゲティにもチーズがトッピングされていた。トマトの酸味と甘みが丁度よく、スパゲティは中太麺でソースとよく絡んでいた。モチモチした食感もよく、とても美味しかった。

スパゲティとカプレーゼの写真は2枚撮った。

リーズナブルな価格設定でスパゲティとカプレーゼ合わせて1200円程だった。レシートをもらってまた来ますと店員さんに言ってみる。またいらしてくださいの笑顔は輝いていた。

外に出て、偶然目に入った空にはまだ明るいのに月が見えていた。

帰りは2駅分歩いて帰ることにした。

帰りは色んな写真を撮った。人気のない公園で落ち葉が落ちる瞬きの間、駆け抜ける小学生、活気がない商店街、あくびする犬、寝ている野良猫。

色んなものを見た。

あの中には色んな人が大切にした色んなものが入っていて、宝箱みたいだと思った。

最寄り駅に着いた頃には4時半で夕焼けが綺麗だった。

いつもの帰り道。

今日がいつもに戻っていく。

家に着く。鍵は開いていた。

ただいまの声が玄関でこだまする。

リビングに置き手紙と1500円、母親は町内会の付き合いで家を開けているらしい。

父親は出張で居ない。

パジャマに着替えて、洗濯物を出して、テレビを付けてソファに座る。

時計は4:47を示している。

コップを取ってオレンジジュースを注ぐ。

ソファの隣にある小さいテーブルに置いてテレビに注視する。

ただただ情報が流れていくのを見ていた。いつの間にか時刻が5:30になったのを名前も知らないアナウンサーが報せる。

少しぬるくなったオレンジジュースを飲み干したらクロックスを履いて外に出る。

もう暗かった。

街灯と妙に明るい月と僕だけがここにあるような気がした。

イヤホンをつけて、ローテンポな曲とともに歩き出す。

女性ボーカルの優しい声が終わる頃には近くのコンビニに着いた。

置いてあった1500円で弁当とおにぎりとコーラを買って帰った。

家で弁当を温めて食べる。いつもと同じ味がする。

余ったコーラを持って自分の部屋に入りスマホを充電ケーブルと接続させる。

何度も見た天井を見たら目を瞑った。

ふと目が覚める。3:12の事だった。結露したコーラを開けて飲むとちゃんと締めきれていなかったのか気が抜けていた。

カーテンを開けて窓の外を見る。

雲ひとつない空に月だけが浮かんでいた。

その優しい光が心にしみてため息をついた。

想うのは明日の事、明後日の事。

変わらない時間割、変わり映えの無い日常風景。いつもと同じ生活が明日からまた始まる。

だけど、いつものおかげで今日の様な日がアクセントとなって強調される。

変化するだけでは慣れてしまうだけだという事に気付いた。

今ならいつもも今日もまだ見ぬ明日も愛しながら大切に生きていける。

そんな気がした。

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