6月10日 模擬演習1

日向肇

模擬討議:吉良小夜子vs.古城ミフユ


 パラソルの下、足を伸ばしてリラックスする俺。反対側に古城も座っていたが俺よりはピシッと座っていて自分で作っていたらしいプリントアウトを手にしていた。


 その様子を見ていて呆れたらしい秋山さんが突っ込んできた。

「日向くん、緊張感なさすぎない?」

「脳裏では吉良がどう考えるのか考えてるからな。体まで気が回らない」


 そこに古城が割り込んできた。

「肇くん、じゃあ、やろうっか」


 俺は頷いた。

「じゃあ行くぞ。……古城さんは制服の見直しを唱えていますが、3年生はその恩恵は受けられないのではないですか?」

「吉良さん、いい質問ありがとうございます。女子スラックスにしろ男女ポロシャツにしろ要件を定めて市販品を着られるように学校側には要望したいと思います。なので新しい制服規定が出来れば即時実施できると考えます。また現在の制服の標準服化については一度生徒にアンケートを取った上で多数意見であれば交渉を行いたいと考えてます」


 俺は眉をひそめた。

「学校が交渉に乗らないとは考えないのですか?」

「私達の制服は80年代に詰襟服・セーラー服から現在のブレザーに変更されてます。中央高新聞を調べると分かりますがこれは当時の生徒自治会が動いて実現したものですので、話し合いの場についてもらえるものと思います。またそのためには保護者、生徒間の意見集約、合意形成を図りたいと思ってます」


 俺は古城にOKサインを出した。

「今の感じでいいんじゃないかな。学校も前例には勝てない。ここだってお役所の一部だからね。この言い方なら学校の顔も立つだろう」

「ありがとう、吉良さん」

っておい、古城。そこでそう言うのかよ。思わず吹き出した。


加美洋子

模擬討議:吉良小夜子vs.古城ミフユ


 私は日向先輩のような不遜さはないので背を伸ばして椅子にチョコンと座った。古城先輩は私の方を向いた。


「じゃあ、古城先輩。行きますよ」

「どうぞ」


「会長任期の見直しを提唱されていますね。文化祭は生徒自治会活動でも重視されているイベントであり、そのために会長が特別な位置付けにされてきたのだと思うのですが、古城さんの提案では会長が楽になるだけなんじゃないですか?」

「会長任期は6月から1年間に見直して、その分を文化祭の運営組織を見直して拡大を考えています。こうする事で年間通じた文化祭準備が行えるようになると考えています」

「でもそれで得するのは会長だけじゃないですか?」

「会長任期終了後は前会長という立場で文化祭の運営について助言できるような仕組みを設ける事は考えています。だからもし私が当選した場合、来年11月の文化祭終了まで前会長としての職務に注力する事をお約束します」


 私は古城先輩のこの回答でいいと思った。

「古城先輩。その回答でいいと思います。当日は力強くお願いします」


三重陽子

模擬討議:吉良小夜子vs.古城ミフユ


 私はチェアを持って冬ちゃんの左側へ行った。どんなシチュエーションになるか分からないから、いろいろ変えて体験してもらおうという趣向だ。私は肇くんとは違うのでちゃんと座った。右側にいる冬ちゃんに声を掛けた。準備よしと。


「冬ちゃん、行くよ」

「陽子ちゃん、いいよ」


 冬ちゃんもニッコリしてきたけど、もうその時には私は吉良さんになり切っていたので笑ってはいなかった。「うわっ」とか言われたけど無視。行きます。


「文化祭について伺います。古城さんは文化祭の堅持という事をうたってますね?」

「はい」

「会長任期の変更と運営組織の見直しを言われてますが、それでは文化祭のあり方が大きく変わったりしませんか?」

「我が校の文化祭は生徒自治会の主導の中でクラスと文化部を中心に展示、模擬店、演技活動を行うというあり方でここまで来ています。会長は11月の1年間と言っても、最後の5ヶ月間は次期会長である筆頭副会長と組んで行う事になります。現会長、前会長と実務をとりまとめる組織の関係を明確にすれば今のあり方を残したまま、新しい体制に切替える事は出来ると考えています。どちらにせよ規則改正を伴いますので改正案を詰めて生徒の皆さんの投票を経て改正が実現する話ですから、きちんと議論した上でその結果を投票に掛ける事はお約束します」

「検討期間はどの程度考えているのですか?」

「年内を目処に進めたいと思っていますが、討議内容により期間は変動するものと考えています」


 私は手を挙げた。

「冬ちゃん。そこは年度内の方が良くない?結構時間掛かるかも知れないよ」

「三重先輩。延びるなら延びるで仕方ないという話は出ているので年内でいいと思います。多分年を越したら次の会長まで決まらない可能性も考えざるを得ません。事情を知る3年生が卒業して新入生が来たら話をやり直さないといけない部分もありますから」

「確かに。それは加美さんの言うとおりね」と私は自説を撤回した。

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