5月24日水曜日 イタリアンカフェレストラン 作戦会議
古城ミフユ
陽子ちゃんと肇くんとは学校の近くの穴場の喫茶店など中央高生が来そうにない場所に集まって作戦会議を行った。都合がつかない時は自宅でスマフォやタブレットのビデオチャットやメッセを使ってやりとりしていた。学校側は陽子ちゃんと肇くんに質問してきた事を除けば表立って探りを入れてきてはいなかった。
この日はショッピングモールのイタリアンカフェレストランの奥の一角に集まった。外はいい陽気だったので3人のブレザーは私の方の空いている席に積み上げていた。
肇くんがどこからか探ってきた情報を教えてくれた。
「どうも選挙管理委員会への学級委員長の参加辞退申し出は今のところ俺と陽子ちゃんだけらしい。少なくとも現時点では対抗馬が出ないかもしれない」
私はその点について異論があった。コーヒーカップをソーサーに戻すと調べた事を肇くんと陽子ちゃんに説明した。
「図書室で過去の中央高新聞は読んできたけど立候補者がいない時は生徒自治会長が後継者擁立に動いたような記事はあった。ただ、そういうケースでは面白い事にどこからかもう1人立候補者が出てきて一騎打ち。だから一度も信任投票になったケースはないんだよね。だから私たちの選挙も一騎打ちになる事はないと思う。これは吉報かな」
陽子ちゃん、肇くんと私は交渉戦略を組み立てていた。まずは学校内の生徒を巻き込んで支持を得る必要があった。だから私が調べた過去の生徒自治会長選挙は信任投票がなく一騎打ちの戦いになるというのは大歓迎な話だった。
陽子ちゃんがアイスティーのグラスを両手で添えていた。
「冬ちゃんの狙い通りに否応なく生徒自治会か学校がやってくれるかもっていうのは確かに吉報だけど。念のため信任投票の覚悟はしておかないと。気は緩められない」
私の傍に積まれたブレザーの山を見やった。
「そうだね。信任投票になった時に備えて公約はきちんと作りこんで政見放送やポスターを通じて制服についてみんなで考える機運を作らないと」
肇くんは腕を組んだ。
「その考えでいいと思う。あと制服問題以外で何を取り組むかも考えていかないと不味い。以前から検討しているリストをそろそろ絞って何をやるか決めていかないと。制服問題の1点集中は生徒の代表としては資質が欠けていると取られたら困るし」
「だよね」
私がそう答えると陽子ちゃんと肇くんは首を縦に振り飲み物を口に運んだ。
私がやりたい事を考えるとただ選挙に勝てばいいという訳じゃないのよね。会長はただの手段だ。とはいえその手段は中央高生全体の利害を代表する立場でもある。だから真摯さは求められるし、それに応えなければならない。
肇くんからは1点確認があった。
「古城、制服改革を押し通すために対外的な宣伝手法を使う気はあるのか?」
それは頭をかすめなかった訳ではない。春休み中に考えていた時、ちらっとお母さんにこの戦術のリスクをどう思うか聞いたら、学校側との関係が修復不能なダメージになるだろうと警告された。
「このような手を使わざるを得ない時点で負けって思わないとダメ」
というのが母の意見だった。
肇くんから「念の為、言うだけだけど」と前置きして言われた。
「もし、やらざるを得ないと判断した時は俺たち二人の同意を得て欲しい」
陽子ちゃんは肇くんの方を見て軽く頷いてから私の方を見た。
「そうね。私たちというか多分これから選挙戦に加わってくれる仲間が増えると思う。その仲間全員の合意事項にして欲しい」
私は二人に約束した。
「外を巻き込んだ取り組みはその反動、影響に耐えられないって思ってる。だからやることはないし、万が一そんな状況になっても試みるべきだと思ったら、仲間みんなに必ず相談して合意を得てからにする事は約束する。勝手にやることはあり得ないよ」
「無論、そんな事態にならずに制服改革を実現する事が俺の、そして陽子ちゃんの意思だ。全力をあげて手伝うからリーダーはしっかり頼むぜ」
「そうそう。冬ちゃんはしっかりブレないでほしいな」
私は二人の声に二回も頷いた。手伝ってくれる親友たちのためにも頑張らなきゃ。
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