5月24日水曜日 生徒自治会長大村敦

大村おおむらあつし


 俺は去年立候補を決意した時の事をふと思い出した。生徒自治会長はもともとなる気はなかった。先代でこの間卒業した神村重光会長の時は大きな問題も起きず、さりとて単なるなあなあの馴れ合いにもならず上手く運営されていた。……考えてみたら何も変っちゃおらず、そこが神村マジックとでもいうべきものだったのかも知れない。


 そして彼の元で副会長を務めていた渡が神村先輩からの会長職の禅譲を狙って立候補するという話を聞いた。渡は口だけで詰めが甘いし杜撰なのは会計委員会の一委員として見てきた。会計委員会は生徒自治会の運営を「部活動」として行う生徒の集まりだった。運動部・文化部の予算もここを通るのでこういう名称だけど、お祭り好きな文化祭運営をやりたい生徒が委員として入っているのだ。


 そういう奴が生徒自治会をダメにするのを見たくなかったので立候補して、渡の当選を阻止した。

 神村先輩ほどの人たらしのマジックは俺にはないけど、誠実に適当に学校の生徒自治会活動を制限しようという動きにはこれ以上譲歩しないというところでなんとか綱渡りしてきた。学校側は管理を強めたい。そういう意思はたまに表に姿を見せていた。僕は歴代会長の中で一番消極的かもしれないが、生徒自治会に学校が介入する事態は防いで来たつもりだ。


 4月。ようやく会長としては一区切りの6月を前にして後継者の不在という懸案事項について再び考えざるを得なくなった。立候補者なんて出ないだろうと思っていたので2年生で誰か候補者を探さなきゃならないのかとは以前から思っていた。


 この生徒自治会には歴代会長が引き継いできたバインダーがある。その中で選挙戦については決して信任投票にならないというジンクスについて書かれていた。誰か1組だけ立候補した時、学校か生徒自治会長が候補者をもう1組見つけてくる事が多いと指摘していた。この法則を発見した会長は「学校側が何か仕掛けてくる事の方が多いので何か口伝か文書があるのかもしれない。あるとすれば教頭先生か生活指導担当だろう」と書いてあった。


 意外に思ったのは2年B組委員長の日向とE組委員長の三重が推薦人をやるからと選管委員辞退を申し出てきた事だった。この二人が出馬するのではなく誰かの出馬を支える気らしいという所までは読めた。酔狂な奴もいたもんだなと思いつつ、禅譲のための候補者の選定は三重と日向の二人が隠している候補者が判明するまで一旦保留にした。この二人が支える気なら信任投票でいいかもと思ったのだ。


 あの二人は立候補者が誰なのか告示日まで伏せている気らしい。学校側はストレートに二人から立候補者を聞こうとして選挙権侵害を盾に拒否された話は目撃していた。


 つぶされたくないんだろうな。立候補者の彼/彼女が何者か知らないけど、名前が判明したらすぐ対立候補を探すか中立の立場を取るか決めるしかない。11月の文化祭まで並走する相手だ。ここは慎重に考えなきゃならない。


 そして学校側、日暮教頭と宮丈みやじょうのどちらかが企んでいるに違いない事はバインダーの「ジンクス」神話の記述もあって確信をしていた。こちらは現職会長には打つ手がないので学校側があまり変な事をしない事を祈るしかなかった。

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