29話 御嶽(うたき) 3/14
そこは男子禁足の聖地。ユタが祈りをささげる場所。
それは突然現れた。
巨岩が二つ。
岩が「人」の字のようにもたれ合い、下部に隙間が出来てる。
隙間の幅は、二人が両手を伸ばしたくらいの大きさで、まるで異世界への入り口のように開いていた。
メイシアが入江に入った時、船上から目にしたのは、コレだったのだ。
船上からは、緑の中にあるただの二枚の巨岩だったが、こんな風にもたれ合い、絶妙なバランスでそこにあるとは思いもしなかった。
マタラが足を止めた。
「ここから先が御嶽です。」
「すっごい。大きな石……。」
メイシアが巨岩を見上げた。
岩なのか石なのかわからないが、登頂部は平らになっていて、陽が当たるその部分には草が生い茂っていた。
ずっと昔から、ここにあったのだ。
「すごいですよね……。もう見慣れましたが、それでも、時々息をのむ瞬間があります。」
メイシアと同じようにマタラも巨岩を見上げた。
「実はワーも、ここまで来るのは初めてで……なんか、緊張する……」
巨岩の隙間は、まるでゲートだった。たった数メートルのトンネル。
なのに向こう側が、遠い。
いや、距離が問題ではない。心理的に遠く感じるのだ。
光を拒絶するような巨岩のゲート。
その向こうには今いる
「そんなに緊張することは無いよ。さ、行きましょう。」
マタラが軽く言い放ち、先に進もうとした。
「ちょ、ちょっと待って!」
ナギィがマタラがゲートをくぐろうとするのを、咄嗟に止めた。
「?」
「……いや、なんか、ここを通り抜けた後の礼儀作法とかさ、なんか、そういうのがあったらいけないから、先に聞いておこうかなぁって思って。」
メイシアも心の中で、確かに!と思った。
「んーーーー、そうですねぇ。これと言ってないですよ。ただ、騒いだり暴れたりしてはいけないですけど。あ、地面に香炉が置いてあるので、それには触れないようにしてくださいね。こんな事、言わなくてもお二人なら大丈夫だと思いますが……」
「香炉?」
「はい。切り出した石のようなものが幾つかおいてあるのです。」
「うんうん。石は触らない、ね。あと、騒がない暴れない。……うん。大丈夫。覚えた。」
ナギィが、指を折って注意事項を復唱した。
その横で、メイシアも無言で頷いた。
「あははは……、本当に、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。さ、行きますよ。」
マタラとの温度の違いに二人は戸惑うが、マタラはそんな事など全くのお構いなしで、まるで遊びで作った秘密基地にでも招待するかのように、二人の背中を押した。
メイシアもナギィも、恐る恐るではあるが、少しの好奇心と期待を混じらせて、ゲートをくぐった。
船から見えていた「あちら側」の世界。
大量の光が、二人を照らした。
ゲートをくぐり抜けた左側から強烈な光を浴びたのだ。
そこは、他の三方向が岩で囲まれている中にあって、一方向だけ海が臨めるように、ぽっかりと空いていたからだ。
まるで絵画でも飾っているかのように開いたその場所は、絵画だとすると額にあたる部分に蔓をいただき、揺れる太陽がサンサンと降り注ぐ。海面もキラキラと輝いているのが見えた。
これだけの太陽が三方向が岸壁で光を拒む場所に降り注ぐのだ。
ゲートの向こうから見えたこの世界は、畏れを抱くほど輝いていたはずだ。
二人は、その景色に息をのんだ。
「ね。そんなに、怖がるような場所じゃなかったでしょ?」
と、マタラがにっこりとした。
「うん、なんか、もっと怖いところなのかなって思っていた……」
メイシアが、ぽろっと思っていた事を口にしてしまった。
「あはは。説明をしといてあげたらよかったね。ごめんごめん。」
「やっと、来たねぇ。」
そう言ったのは、先に到着していた
清明二人は地面に座し、海の方角を背に岩壁に向かって、祈りを捧げていたのだが、一人がそれを中断して声をかけてきた。
御嶽と呼ばれるその聖地は、さほど広くはなく……というよりは、先ほど六人の清明とすれ違ったが、彼女たちがここでお祈りをするにはギリギリの広さかもしれないと思われた。
メイシアたちもこの空間に入ることで、とても狭く感じた。
壁よりは海寄りに腰を下ろし、壁側を向いて祈りをする二人の清明。
その清明の前方の壁に沿うように、さっきマタラが言っていた、香炉だと思われる石が幾つか並んでいた。
「お待たせしました。」
マタラがそういうと、清明たちは突き当り奥の岩壁側に少し詰め、少し前方へ移動して、後ろを開けてくれた。
入り口付近で立ち尽くしていた、メイシアとナギィが、清明たちの後ろ……海側へと回った。
マタラが清明が開けてくれた場所へ並ぶび「私はもお祈りを始めるので、お二人も後ろで……」と言ったその時、黙っていたナギィが、青い顔をしてよろめいた。
メイシアが反射的にナギィの腕を掴んだ。
「ナギィ、どうしたの!」
マタラも清明二人も、その声にびっくりして振り向き、ナギィに注目した。
「あぁ、ごめん……。さっき泣いたからかな?急に眩しくて目がちかちかして……頭が痛いんだ……。でも、大丈夫。頭が痛いだけで、だんだん眩しいのは慣れてくる……と思う……」
ナギィが眉間に手を当てて、目を瞑り痛みに耐えているようだった。
「でも……」
メイシアが心配でナギィの顔を覗き込んだ。
「……チューバーさぁ。」
「……チューバーねぇ。」
二人の清明が口々につぶやいた。
「チューバー?……チューバーって何ですか?」
「チューバー……確かにそうですね。」
マタラはメイシアの問いに答えるよりも、驚きの方が大きかったようで、一人納得した様に頷いた。
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