24話 魚釣島の清明 14/16
「まず、
カマディが、拗ねて膨れた子供をあやす様に、メイシアの背中を優しくなでた。
その行動の意味が分からず、メイシアはきょとんと、カマディを見た。
カマディは、そんなメイシアに優しく静かな声で話しだした。
「いいかい、メイシア。
今、
その辛さを、誰も否定できない。同時に、誰も自分に嘘をつき通すことは出来ないんだよ。
……そして、誰も
全ては、あるがまま。ただそうだっただけ。
なるようにしか、ならなかった事さぁ。……わかるかい?」
カマディの優しい掌と言葉に、メイシアはドキリとした。
それを聞いて初めてメイシアは、一人だけ残ってしまった自分を、どこかで責めているのだと、気が付いたからだ。
自分が書庫に閉じこもっていなかったなら、自分もみんなと同じように消えることが出来たのかもしれない。
何も成し遂げてこなかった自分が、そしてこの先も何も成し遂げられそうにない自分が残ってしまって、立派な牧師さまや、尊敬する両親、大好きな村のあの人たちが残らなかったのか。
もしかしたら、自分が秘密の書庫に閉じ込められなかったら、どこかで村の運命は変わっていたかもしれない。
自分が起こした行為が、図らずもこのような事態の引き金になってしまったのかもしれない。
村を元に戻してもらうために、ロードのところへ旅を始めたが、それを、成し遂げられるのかという恐怖や、途中で投げだしたい気持ちが全くなかったわけではない後ろめたさ。
……そして何より、旅を初めてから不謹慎にも、みんなとの旅が楽しいと思う瞬間が多くなってしまった事。
そういう色んな感情を、前向きな気持ちにより覆いかぶせてしまって、自ら隠し、自分に嘘をついていた事に気が付いてしまったからだ。
いつの間にか昨日の夜の寂しさとは違う、どろどろとした感情から涙が止めどなく溢れて来て、メイシアは嗚咽を漏らしながら泣いてしまっていた。
「ごめんなさい……、ごめん、ごめん……」
途切れることなくカマディは、ゆっくり、メイシアの背中を摩った。
泣きじゃくりながら、何度も謝るメイシアにカマディが、声をかける。
「もう、大丈夫さぁ。
不思議に、それが特別な呪文のようにメイシアの心の中に入って来て染み渡った。
何度も何度も、メイシアが謝る度にカマディが優しく唱えた。
止まらなかった涙が止んで呼吸が整った時、メイシアは、今までに無い不思議な感覚だった。
今まで何度か、村の事で涙を流したが、今までとは全く違う心の模様だった。
そうなって初めて気が付く。
心に一枚取れなかった曇りガラスあったことに。それが今やっと拭い取れたような、そんな気分だった。
もう、それが不謹慎だなんて思わないでもいられた。
今までもうわべでは、そんな風に思っていないと思っていたのに、心の奥底で自分を責めていた自分に初めて気が付いたのだ。
「ようやく、落ち着いたね。……さ、お茶でも飲むといいさぁ。涙は体の水を全部外に流してしまうからね。」
湯呑を手渡され、泣き疲れて、少し震える手で湯呑を受け取り一口飲んだ。
飲み込んだ一口は、まるでカマディの言葉と同じように体中に染み渡るようだった。
ふぅ、と一呼吸。
「……あは、あははは……なんか、泣いちゃった。……ありがとうございます。」
カマディは笑顔で頷いた。
「
「……はい。とても、辛かったです、、」
さっきまで言えなかった事が言えた。
「メイシア。ワシでは力不足かもしれないが、ヤーのオバアになってもいいかい? 」
今までメイシアだったら、申し訳なさや、少しの煩わしさや、かわいそうな自分を前に、相手がそう言わざる得なかった事情をおもんばかって、やんわり断っていただろう。
でも、今は違った。
カマディの言葉を、素直に受け入れることができた。
「……嬉しい。おば……おばあちゃん。」
「はいよ、メイシア。オバアをユタシク ウニゲーサビラ。」
そういうと、カマディはメイシアをぎゅっと抱きしめた。
メイシアは、久しぶりに人の肌にちゃんと触れられたような気がして、とても幸せな気分になった。
心を通わせるという事は、こういう事なんだと心底感じていた。
────
ヨンナー / ゆっくり
ユタシク ウニゲーサビラ / 宜しく願いします
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