17話 魚釣島の清明 7/16

 他愛もない話をしている間に、ユウナの治療が終わったようで、ウッジの腰にかざしていた手をもどした。


 「ネエネエ、終わったよ……って、寝ちゃってるねぇ。」

 見ると、ユウナがとらせた体制のまま気持ちよさそうに、眠っていた。


 その横でウッジを心配そうに見ていたチャルカも寝てしまっていた。その上でメリーまで寝てしまっている。


 「おやおや、カーミぬ上に子亀クヮカーミさぁ。あははは。」

 「お二人とも相当お疲れだったのですね。このまま寝かせてあげましょうか。」

 「……メリーはただのグータラだと思うけどね、」


 「ネエネエ、さっきの話さぁ、カマディのところだったら、こっちにンマガと住んでるヤーは……家はあるんだけれど、今は島に行っている時期だから渡んないといけないさぁ。」


 「はい。そのつもりなんです。明日、船をお願いして渡ろうかと。」

 「ンチャ、それはムチガカイ……心配ないさぁ。やっぱり、ムチカサンねぇ! あははははは!」



 陽気なユウナの声は、聴いているだけで、こちらまで明るくなるようだった。


 「ほんと、ユウナさんはお医者さんですね。お話をしているだけで心が軽くなるように思います。」

 ストローの言葉にユウナがうんうん、と頷き嬉しそうにした。


 「ウマンチュ、いろいろあるけれど、アカさん生きていたら良いイー事があるもんさぁ。カマディに何を聞くんか知らないけれど、きっと大切テーシチぬ事なんだろうさぁ。あんまり、追い詰めないで、適当適当テーゲーテーゲー。それくらいで丁度イーバーさぁ。」

 そういうと、ストローの近くのまでにじり寄って、頭を撫でた。


 「……ありがとうございます。なんか、オッカァの手みたいだ。」

 その優しい手に、ストローは極北の地に残してきた母親を思い出した。


 「って、十六夜人イザヨインチュのネエネエ、今のちゃんと喋れてた?」

 「……うーん、ちょっと出来ていませんでしたが、」

 「オラにはちゃんと、伝わりましたよ。本当にありがとうごさいます。」


 「ヤサヤサ。じゃ、ワーは行くさぁ。腰の痛いネエネエは、起きたら良くイーなっているさぁ。今晩チューユルは寝かせてあげて。このままねぇ。」

 ユウナが立ち上がった。



 「ユウナさん、本当にありがとうごさいます。お礼はどうしたら……」

 

 「いやいや、そんなの要らないよ。王宮のウチャクさまで、何かとても大切テーシチ用事ユージュがあってチューンさぁ? イチャリバチョーデー。気にしない気にしない。」


 「イチャリバ……」

 「イチャリバチョーデー。十六夜の心です。会えば皆兄弟、というような意味ですね。」

 「へぇー、いい言葉だね。うん。イチャリバチョーデー。オラも、これからそうする!本当にありがとう、ユウナさん。」


 「また何かあったら、ワーを呼ぶとイーさぁ。アンセーねぇ。」

 そういうとユウナは部屋を去って行った。



 「安静か……。治してもらったといっても、明日ウッジは船は無理かな……」

 ストローがそういうと、チルーがフフフと堪えられないのか笑い出した。


 「え、なになに?オラなんか変なこと言った?」

 「違うんですよ。ユウナさんがおっしゃっていたアンセーとは『それでは』みたいな感じで、ウッジさん腰を気遣っての言葉ではないのです。フフフフ……」


 「あ……、あぁ、そうなんだ。もぉー、チルー、そんな事で笑うの酷いよぉ。」

 「すみません、ちょっと緊張が途切れたので。実は清明シーミーは、その使命から気難しい方が多いのです。でも大丈夫でしたね。ユウナさんは、とてもお優しい方で。」


 「うん。そうだね。ユウナさん、また会えるといいなぁ。」

 「そうですね。さぁ、お腹空きませんか?何か、女将さまに作ってもらってきましょうか。」



 そういわれて、ストローは初めてお腹が減っている事に気が付いた。


 「……うん、お腹空いたね、お願いしてもいいかな、」

 少し恥ずかしそうに答えた。

 何だか実家にでも帰って来て、家族に世話を焼いてもらっているような気分が、ふわっとしたからだ。


 「?」


 「何でもない何でもない。オラが言ってこようか?」

 「いえいえ、私が行ってまいりますよ。……ウッジさまとチャルカさまは、もし目が覚められた時ようにおにぎりでもお願いしてきましょうか。」

 「そうだね。申し訳ないけど、お願いしてもいいかな……」

 「はい。では、ちょっと行ってきますね。」


 チルーは立ち上がり、女将を探しに部屋を出てった。


 すぐそばで二人と一匹が寝ているとはいえ、一人になってふと考える。

 何とは無しに、送り出してくれた母親の事、旅の道中の事、オズの事、宮殿で出会ったロードの事、メイシアの事……。


 外に目をやると、建物から大きくせり出したアマはじに、大きな月がかかっていた。

 ストローがそっと、月にメイシアが無事で見つかりますようにとお願いをした。


 しばらくして、チルーがそばを持ってきた。

 二人でそれを食べ、途中から、目が覚めたチャルカとメリーも交えて、静かに食事を終え、その夜は就寝した。


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