△4七小角《ちょろかく》(あるいは、最大級/焦熱エリア81)
ともかく。
「……
総合的に「無事」と言い切るにはどうかと思われたものの、
「ぅるせぇぇぇぇぇッ!! 沖島ぁ……アンタがアタシをまるで眼中に置いてないことなんざ、臭ってくるくらいにバレバレなんだよぉッ!!
気合いの入った「変身ポーズ」が、小刻みに震えて見えるのは、私だけじゃないはず。小柄な身体を震わせながら、兎宿原さんはそう怨嗟混じりの言葉を紡ぎ出してくる。
「……だからよぉ、この『場』なら、全力でぶち闘えるとか思えた……だからこそ、あえてこのクソ『二次元人』に掴まってやった……アタシがアタシのメンタルを保てるのならばッ……それはすなわち、アタシの『対局』だって割り切れたから……」
紡ぎ出す言葉のひとつひとつが、何とも言えない哀切に包まれているように感じた。阿久津先生の時と同じだ。「将棋」になにがしかの鬱屈とか葛藤を抱えた人が、この「八棋帝」とかに、引き込まれてしまうのかな……分からないけど。
でも分からないなりに。救わなきゃいけない気持ちにはなっている。「将棋」とは本来、目先の勝ち負けとか、自らと他の処遇の違いに、一喜一憂するものじゃあないと、私は思っているから。
「この場で勝負しろ、沖島ァッ!! だからこその、あえての『通常』の盤駒なんだからよぉッ!!」
そう言い放った、兎宿原さんの言葉は、やはり何とも言えない「哀」が、まぶし込められていたように思えるのだけれど。でも「通常」と言いつつ、ちょっとだけ違うよね……「飛車角」に代わってこちらは「
「もちろンさッ!! 全力でねじ締め伏せてアゲルかラッ!! 行クよ、鳳凰、猛豹、王将ッ!!」
安定のアニメ声が。沖島さんはその目に来る桃色のスーツに覆われた両腕を身体の前で軽く組んだまま、そう応じ返す。思わず見返ってしまった私だったけど、その立ち姿は何だろう、対局中の凛とした雰囲気を、その突拍子もない外見やら挙動のその奥に、持ち合わせているようにも見えて。その視界は黒いパーツに覆われて見えていないはずなのに、振り返った私の挙動が「見えて」いるのか、軽く頷きをしてくれた。
<対局開始>
心強さと共に、私は自分がひとりじゃないということを改めて思う。行こう、みんなで。
「オルグァァァァァァァァァァァアッ!!」
私もいつもの気合いを一発。これやっとかないと、
「!!」
でも。相手……「
<……『6六猛豹』『4五鳳凰』『6五猛豹』『2三鳳凰成』『5四鳳凰』>
そんな、素のメンタルに引きずり戻されつつあった私の
慣れてるのか、でも「鳳凰」とか「猛豹」って私たちしかいないから初見と思われるけど、即対応してる……どこか、楽しげな声の感じまで含ませて。それに背中を押されるようにして「盤面」を恐れず進んでいく。そうだよチームワーク。それこそが、
一気に盤面中央に躍り出た私は、顎とみぞおちに付けられた「牙」……黒い金属質な光を放つそれらを噛み合わせながら、5四に飛び出ていた相手側の「歩兵」の喉笛(あるのか分からないけど)を噛み千切る。慌てた感じでフォローに出て来た右銀の、鉄骨が組み合わさったような「腕」での一撃をバックステップで交わしながら、右斜め前方、既に相手角前の歩を召し取っていた
「『2二鳳凰成』からの……」
敵陣に到達した、ミロカの全身が緋色に輝く眩い光に包まれた。そのシルエットが巨大な「翼」を持つものへと変化したと思った瞬間、
「『角の武装化鋼』ッ!! 『スクエアリング=ホーナー=サタエ=アングラシィズ』ぁッ!!」
ミロカの細い両腕と、雄々しい両翼に抱え上げられた「角行」の巨体が、回転ノコギリみたいに高速の横回転を始める。アレに触れたら真っ二つにされそうだけれど。
「……」
いや? アレを利用する。乗れると思えば乗れる。乗れるイメージを具現化するんだ、そうすれば……
「オルグァァァァッ!!」
私はホップステップジャンプの呼吸で、その「回転角行」との間合いを一気に詰めると、真上からボディに着地。両手両足を踏ん張って、その遠心力に振り落とされないように限界まで我慢したのち、
<今ッ!!>
マスク内に響いてきた
「!!」
噛みついたところを支点にして、その巨体は後方へのけぞるようにして一回転させられながら、盤面の端まで吹っ飛ばされると、暗黒空間の彼方へと遠ざかっていった。
同時に左辺の「角」も「桂馬」「香車」を巻き込んで上空へ飛び去っていくのを感知。よし、大駒二枚を屠ったッ!!
いける、と思った瞬間だった。
「ガラ空きだぜ猛豹ぉぉぉぉッ!! まずはお前だぁッ!!」
「
「!!」
避けられない、と思わず目を瞑ってしまった、さらにのその瞬間だった。
「あああああッ!!」
全身を使った鋭いタックルで、ピンクの人影にたたらを踏ませたのは、
「トップ下は俺の主戦場……」
ちょっと言ってることの意味は分からなかったけど、「王将」の冠を被ったモリ少年だったわけで。
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