第69話『告白』
一番好きなのだと分かった人に電話をかけ、大事な話があるから家の近くまで行ってもいいか話をした。
ただ、彼女から俺が今どこにいるのかを訊かれたので花畑だと答える。すると、彼女は花畑が大好きだから、そこで話を聞きたいと言ってきたのだ。なので、花畑で話すことに決まり、俺は彼女がここに来るのを待った。
「緊張するな……」
彼女が俺のことが好きであることは分かっているのに。
きっと、彼女が俺に告白したときは、今の俺以上に緊張していたのだろう。だから、3人とも尊敬する。一度だけじゃなく、ミスコンでも俺に告白してくれたし。あと、璃子も帰り際に俺に好きだって言ってくれたな。
彼女からの告白の返事をするけれど、4人のように自分から告白するという心構えでいよう。
今夜は咲かない月下美人の前で、これからどうやって彼女に好きだと伝えようかと考えながら、俺は彼女が来るのを待った。
「お待たせ」
「急だったのに来てくれてありがとう。……咲夜」
俺が彼女に電話をかけてからおよそ20分後。
花畑には1人の少女……月原咲夜がやってきた。夜になっても蒸し暑く、20分ほど歩いたからか彼女は少しだけ息を荒くしていた。
「ううん、いいんだよ。それに、颯人君に大事な話があるって言われたらすぐに行くって。それに、颯人君のいる場所があたしの好きなこの花畑だから」
「そう言ってくれて嬉しい」
俺が一番好きな人は月原咲夜だ。
咲夜はゆっくりと花畑の中に入ってきて、俺の目の前に立つ。咲夜と初めて話した日とは違って、今日は月が全く見えないけれど、近くにある街灯のおかげで彼女のことをしっかりと見ることができている。
それにしても、こうして間近で見ると咲夜って本当に可愛らしい女の子だな。今までの中で一番と言っていいほどにドキドキしている。
「さっそく話してくれるかな。颯人君の……大事な話」
「……ああ」
さっそく本題を切り出されたので、凄く緊張する。だからか、息苦しさもあるが、ちゃんと言葉にして伝えたい。
俺は一度深呼吸をして、咲夜のことを見つめる。
「咲夜。一昨日と昨日、好きだって告白してくれてありがとう。とても嬉しかった」
「うん」
「俺は……あなたのことが一番好きです。俺と恋人として付き合ってくれませんか」
好きだと伝えた瞬間、俺は一昨日の咲夜の言葉を思い出した。告白するとドキドキもするけれど、スッキリもすると。まさにその通りだった。
咲夜は両眼に涙を浮かべて、
「……本当に? 紗衣ちゃんや会長さんも好きだって告白したのに、あたしを選んでくれるの?」
俺を見つめながらそう問いかける。紗衣や麗奈先輩も素敵な女の子だから、自分を選んだことに信じられない気持ちがあるのかもしれない。
「そうだ。紗衣も麗奈先輩も素敵だし、正直、好きな気持ちもある。でも、俺にとっては咲夜が一番好きなんだって分かったんだ」
「……そうなんだ。でも、あたし……ここでニセの恋人になってってお願いもしちゃったし、佐藤先輩のときは恋人だって嘘ついてキスまでしたし、颯人君の過去のことで喧嘩もしちゃったし。あと、あたしの家に来たときは、足を滑らせたあたしのことを受け止めてくれたし……色々と迷惑かけちゃったんだよ?」
咲夜はちょっと悲しげな様子になる。彼女の言う通り、決していいことだけがあったわけではない。
「3人の中だと、確かに咲夜が一番色々なことがあった。でも、今、それらのことを思い出すと微笑ましくなるんだ。そんなことあったなって」
「颯人君……」
「……紗衣や麗奈先輩もいたからっていうのはもちろんあるけれど、1ヶ月半前に咲夜がここで話しかけてくれたことが、全ての始まりだったって思えるんだ。一緒にいることが嬉しくて。離れることが寂しくて。それを一番強く想ったのが咲夜だった。この花畑に来たとき、あの日のことから今日までのことを色々と思い出していって。1人きりだからか、みんなの可愛い笑顔が凄く頭に浮かんで。でも、自然と咲夜の笑顔ばかりが頭に浮かぶようになったんだ。また会って、咲夜と一緒にいて、咲夜の笑顔をたくさん見たいって思って。その瞬間に俺は咲夜のことが一番好きなんだって自覚したんだ。……思ったことを次々言っちゃっている感じだけど、少しでも伝わっていると嬉しいな」
告白してスッキリとした気分にはなっているけれど、心臓はバクバクだ。強い心臓やメンタルがあれば、少しは整理して咲夜に気持ちを伝えることができたのだろうか。
「伝わってるよ」
咲夜は優しげな笑みをしながらそう言うと、両手で俺の右手をしっかりと掴む。
「あたしのことが大好きだっていう颯人君の気持ちは、ちゃんと伝わってる。だって、今の話を聞いてドキドキして、幸せな気持ちが膨らんでいって、颯人君が好きだっていう想いがより強くなっているんだもん」
咲夜は彼女らしい可愛らしい笑みを浮かべる。
「颯人君の返事、ちゃんと受け取ったよ。これからは恋人としてよろしくお願いします」
「……ありがとう」
俺は嬉しさのあまり、咲夜のことを抱き寄せる。恋人になったからなのか、今まで以上に彼女の温もりや甘い匂いを強く感じる。それがとても幸せで。
俺が抱きしめてすぐに、咲夜は両手を俺の背中に回してくる。
「大好きな場所で告白の返事をもらって。颯人君の恋人になることができて。颯人君の温もりに包まれるなんて。凄く幸せだよ」
「……そうか。良かった、咲夜と恋人になることができて。咲夜の気持ちは分かっていても凄く緊張してさ」
「ふふっ、そうなんだ。一昨日、あたしも告白したときは凄く緊張した。ただ、こうして恋人になれたから、あのときのあたしに『頑張れー! 行けるぞー!』って応援してあげたい」
「……咲夜らしいな」
俺も……自分を応援したいかな。咲夜の気持ちが分かっていても緊張したから。
「……ねえ、颯人君」
「うん?」
咲夜は上目遣いで俺のことを見つめてくる。
「恋人になったんだし、颯人君からキスをしてくれない? これまでしたキスは全部あたしからだったから」
「確かに……そうだな」
もし今言ったことが違ったとしても、上目遣いで見つめられながらそんなお願いをされたら断ることなんてできないだろう。
「……分かった。咲夜、大好きだ」
「あたしも颯人君のことが大好きだよ」
そう言うと、咲夜はゆっくりと目を瞑る。そんな彼女もとても可愛らしくて。
俺は咲夜の唇に吸い込まれるようにして、彼女にキスをした。
自分からすることや、恋人になってからは初めてだからか、これまでのキスよりも気持ち良く感じられた。
ゆっくりと唇を離すと咲夜は「えへへっ」と照れくささも感じられる笑顔を見せて、
「颯人君。とても素敵な笑顔になってるよ。初めて見た微笑みも素敵だけれど、今の顔も凄く好きだよ」
「……きっと、咲夜のおかげで笑っていられるんだと思うよ」
「そう言ってくれると嬉しいな」
そして、今度は咲夜の方からキスをしてくる。彼女からキスをされると、佐藤先輩に彼女が告白されたときや、一昨日の告白を思い出す。それらのときのキスも良かったけれど、恋人になってからのキスは格別だ。
「幸せでいっぱいだよ、颯人君」
「俺も。……そうだ。俺達が付き合うことになったこと、紗衣と麗奈先輩、璃子に報告しないと」
「そうだね。あと、健太君にもね」
「……そうだな」
璃子が俺に告白したとき、健太は愕然としていたからな。
ここは一度に伝えるために、LIMEというSNSアプリのグループ通話を使って報告するか。さっそく、俺のスマートフォンから、6人のグループトークで通話をすることに。
『こんばんは。どうかした、颯人』
『6人全員で話すなんて。はやちゃん、何かあった?』
『無事に帰れたことはお母さんからも言われましたが』
『何かあったんすか! 兄貴!』
紗衣、麗奈先輩、璃子、健太が通話に出てくれた。咲夜に告白するときよりも緊張しているかも。
咲夜は俺の手をぎゅっと握り、俺のことを見て笑顔で頷いてくれる。そのことでいくらか緊張が解けた。
「実は4人に報告したいことがあって。……俺、ついさっき咲夜に好きだって告白して、咲夜と恋人として付き合うことになりました。なので、紗衣、麗奈先輩、璃子。……ごめんなさい」
音声通話だけれど、俺は深く頭を下げた。咲夜と付き合うことに決めたということは、紗衣、麗奈先輩、璃子のことを振ったということだから。
少しの間、無言の時間が続き、
『……そっか。悔しいけれど、颯人がそう決断したなら……私は応援するよ。颯人……咲夜……おめでとう!』
紗衣は俺達に祝福の言葉を言ってくれる。ただ、その声色はいつもと違っていて、時々つまってもいたので、きっと今は涙を流しているかもしれない。
『そうだね。おめでとう……だね! 選ばれなかったことは悔しいし、悲しいけれど……咲夜ちゃんならはやちゃんと幸せになれそうな気がするよ! 絶対に幸せになってね。そうじゃないと、スッキリできないから。2人なら大丈夫だろうけどね』
えへへっ、と麗奈先輩は笑ってくれる。
『……これが失恋するってことなんですね。颯人さん……教えてくれてありがとうございます。咲夜さんと一緒に幸せになってください。いつか、お二人でも、家族が増えてからでもいいので、海野家に泊まりに来てくださいね!』
どうやら、璃子も俺が咲夜と付き合うことを決めたことを受けて入れてくれたようだ。あと、こういうときにも旅館の宣伝を絡めてくるのは、さすがは旅館の娘だと思う。これからの人生で、何度も池津にはお邪魔することになるんじゃないだろうか。
『……そうっすか。兄貴! 咲夜お姉さん! おめでとうございます! いつまでもお幸せに!』
『健太君、何だかそれじゃお二人が今、結婚するみたいじゃない』
『い、いいじゃねえかよ! いつまでも幸せでいてほしいだろう?』
『健太君の言う通りだ。颯人と咲夜にはずっと幸せでいてほしいよ』
『そうだね! あと、いつか結婚するって決めたときは、またこうして報告してね! はやちゃん! 咲夜ちゃん!』
『新婚旅行には海野家をオススメですよ! 全力でおもてなししますね!』
『そのときはオレもお手伝いしますよ!』
あははっ! とスマートフォンから4人の楽しげな笑い声が聞こえてくる。紗衣、麗奈先輩、璃子はきっと今も悔しい気持ちや悲しい気持ちはあるだろうけど、この笑い声からしてとりあえず大丈夫だろう。
それから、俺は咲夜と別れ、家に帰って家族に咲夜と付き合うことを報告。みんな喜んでくれたけど、特に咲夜の喜び方が凄かった。
また、咲夜の方もご家族に報告したのか、美里さんから電話がかかってきて、彼女だけでなく御両親からも咲夜のことをよろしくと言われた。
こんなにも祝福してくれる人がいるなんて。とても嬉しいな。4人が言っていたように、咲夜と一緒に幸せで居続けられるように頑張ろう。
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