第68話
「あ、すいませんっ」
廊下を全力で走る。先生に何か言われたらあとで誠心誠意謝ろう。
この学校は体育館同様かなり大きく、体育館と屋上に行ける、というか開けられる特別棟との距離はかなり離れている。今はその設備の充実ささえ腹が立ってくる。
普段特別棟は芸術科目や資料室、図書室、空き教室しかなく、その静けささえ今は不気味に、そして僕を不安にさせる。
もしかしたら階段から落ちるのは僕じゃなくて.........。
嫌なことばかり思い浮かぶ。……大丈夫、大丈夫だから。
そんな言葉を呪文のように、一種の暗示のように心の中で繰り返す。
階段を上がり終え、屋上のドアを開ける
「麗華先輩!」
精一杯叫ぶけど、『裕也君!』と帰ってくる声はなくて
保健室か、それとも…あのクソ女の仲間に連れていかれた?
特別棟で特に人気がない場所.......図書室は鍵が空いていない。芸術科目の部屋も空いていない。となると鍵が開いているのは文化祭の物置となっている空き教室だけ...。
今は体育館でやっているミスコンにみんな行っている。当然、空き部屋に来る人なんていない。
僕は走り出し、夏樹に通話で要点だけ伝えて電話を切る。
麗華先輩!!
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
裕也君、裕也君!
急いで屋上に向かう、もうこの際ミスコンなんてどうでもいい!!
私は裕也君が無事なら何でもいいんだから。
やっと、心の距離が縮まってきたんだから。あとちょっとなんだから。
三階の階段を上がろうとした時、ふと声をかけられる。
「如月さん、如月麗華さん!ちょっと待ってください」
「すいません!急いでるんです!!」
あの人は……確か去年私に告白してきた........賢人さん?
「大峰裕也君なら、屋上の階段の下で倒れていたから使っていない部屋に運んでおいたよ」
「え、本当ですか!」
「血も流してないし、多分頭を打って気絶しているんじゃないかな」
「良かったぁ」
良かった、ほんとに良かった。私はそっと胸をなでおろす。
「それで、裕也君は何処ですか」
「こっちだよ。僕一人じゃ一階の保健室まで運べないから先生を呼ぼうと思っていたところなんだ。そしたら、偶々大峰裕也君と一緒に噂されている、あなたが来たから」
「そうですか、ありがとうございます」
賢人君について行き、着いたのは空き教室だ。
「裕也君!」
私はドアを開けて裕也君を探すけど、誰もいない。
あるのは、机や椅子、それと文化祭で余った材木など。
事情を聞こうと、振り返ろうとすると突き飛ばされる。
「きゃ…」
「はーい、静かにしようね」
静かに、不気味に笑いこっちに近づいてくる。
「騙したんですね...!」
「うん、そうだよ」
そう言って今度はにっこり笑う。
「どうして...」
「どうしてか…二つ理由があるね。まず一つは....俺の告白を断った事かな」
「は....?」
全く意味が分からない。何で?どうして?
「え?だってそうでしょ?僕の告白を断ったんだよ。おかげで俺は『流石に賢人でも麗華ちゃんは駄目だったか』やら『ドンマイ』なんていわれてさぁ。初めて言われたよ。そんな言葉。俺一度も断られたことなかったんだよね」
「……」
........全く意味が分からない。この人は、プライドの塊か何かなのか。
この一瞬だけでこのひとも一華と同じってことだけは分かった。あいつもこの人も何かに縛られたように自分が一番だと、一位ではないといけないと思っているんだと思う。
そんな二人が重なって見える。
「まぁ、それは百歩譲って大目に見てあげるけどさ。どうして俺は駄目で、あんな奴はいいのかなぁ」
そう言って私の頬に思いっきり平手打ちをしてくる。
「あのさぁ、そういう事されると困るんだよね。あのまま誰とも付き合わなければ良かったのにさ。おかげで俺はあんな奴より下ってことだ」
そう言って今度は反対側を叩く。頬にじんわりと痛みが滲みひりひりしていたい。
「やめて」
「そっか、そっか。じゃあ、もう一回な」
裕也君のためにせっかくきれいにしていたのに........。髪も乱れてしまった。
抵抗しようとするけど、私の華奢な体では、上級生のそれも男子の力に抵抗できるはずがなく、抑えられてしまう。
そしてもう一度、私を叩こうとした時、ドアが勢いよく開けられ、そのままこっちに走ってきて勢いをつけたまま思いっきり賢人を殴る。
「麗華先輩...!すいません、遅れました」
「ごめんね、裕也君」
ありがと、裕也君。
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