第49話

「夏樹君、頑張ってー」

「裕也君ファイトー」


九月下旬、ついに始まった球技大会午後の部準決勝。

僕と夏樹コンビは今のところ躓くことなく、順調に勝ち進んでいる。

もちろん、麗華先輩も順調に勝ち進んでいる。


でも......そのたび頭を撫でてって言ってくるのは止めて欲しい。

みんなが見てるから恥ずかしいし。


ルールは時間の関係上、決勝以外は十一点勝負となっている。それ以外は一緒である。


夏樹が端のぎりぎりに落とし、ぎりぎり相手は取るが上がった球を僕がしっかり入れる。


「11-5、大峰、神崎チームの勝利」

「うっし」

「やった!」


僕と夏樹はハイタッチを交わし、握手をする。


「次は決勝だけだな」

「うん、頑張ろ」


僕たちはコートを出て、休憩を取ろうとすると、クラスメートたちが駆け寄ってきた。


「夏樹と裕也君お疲れ」

「ありがと」

「ありがとう」

「裕也君のスマッシュ何回見ても速いね」

「そうですか?ありがとうございます」

「そうだよ。私ならビビっちゃうくらい」


えっと...この子名前なんて言うんだっけ?見たことはあるんだけど......


えっと。うーんっと。..........


ショートボブで結構おっとりしていてクラスの中心にいたような.......。


この頃急にクラスメートと喋るようになったから、全然名前を覚えていない。

喋るようになったというか、喋りかけられる事が多くなった。


今まで、女子とは意図的に避けてたんだけど、それが急に多くなったから、対処ができていない。

元々あまり女子とは話さない人だったけど。


どうしよう、こういう時何話せばいいのか分からない。


僕はちらっと助けを求めるために、夏樹の方に目を向けると、夏樹と目が合い察してくれる。


「裕也が咲とも話したいってさ」

「え?裕也君私と喋りたいの?」

「え、あ」


おい。何でさっきより状況を悪化させるんだよ夏樹.......。


僕はこそっとそう耳打ちすると


「いつも麗華先輩といちゃついている罰だ」

「どんな罪だよ」

「ん?なにこそこそ話してるの?私もまーぜて」

「あ、私も」


さらにどんどん増えて、僕と夏樹は囲まれてしまう。


「裕也君はその、彼女はいないの?」

「いるでしょ、麗華先輩が」

「え?でも夏樹がまだ付き合ってないって言ってたよ」

「で、実際は付き合ってる人はいないの?」

「えっと、そのいま....」

「す、私です」


麗華先輩が座っている僕を後ろから抱きしめる。


「麗華先輩、終わったんですか?あと僕、もしかしたら汗臭いかもしれないので抱き着かない方がいいと思います」


一応、匂いのきつくない汗拭きシートで吹いているけど.....好きな人に臭いとか思われたくない。


「大丈夫だよ。裕也君からはいつもいい匂いしかしないから。私こそ大丈夫?」

「全然大丈夫です。その.....麗華先輩もいい匂いですよ」

「良かったぁ。あと、しっかり勝って私も決勝進出だよ」


麗華先輩が屈託なく笑う。


「それで....?」

「はいはい」


先輩からせがむ視線を向けられ、僕はできるだけ優しく撫でる。


「ねぇ、これってやっぱり付き合ってるよね?というか結婚している感があるんだけど」

「だよなー。俺もそう思うんだけど、裕也が違うって言ってて」

「まだ付き合ってないよ」

「ふぅーん」

「なんだよ」

「いんや、なんでもないですよ」


夏樹のうざい視線を受けていると、


「私も裕也君と話するー」

「はいはい」


先輩は少しぷくぅーっと頬を膨らませて、話に割り込んでくる。


僕たちは次の試合が始まるまでゆっくりとした時間をすごした








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