知りすぎたい男

青獅子

第1話

某県某市にある某刑務所――――。ここに自分のことを知りたくなった男がいた。男は自分を客観的に理解したかった。


「俺ってどんな風に周りから見られているのだろうか?」


気になって気になって仕方がなかった。


「子供の頃から周りはどんな風に俺を見てきたのだろうか?」


というのは最近、どうも自分が正しく理解されていないような気がしてならないからだ。


自分ではこんな風に思われているに違いないと思ってとった行動がどうも思ったように受け取られていないことが続いたのだ。


好かれようと思ってやったことが嫌われたり、また、投げやりな気分でやったことが何故か誤解されて高評価に繋がったこともあった。


「世間は俺をどんな風に見ているのだろうか?」


刑務所には毎日ちゃんと新聞が届く。男は自分の記事を探した。しかし記事は黒塗りにされていた。収監者自身は自分が関係する事件の記事を読むことができないのだ。男はがっかりした。




◇ ◇ ◇




数日後、工場での刑務作業中に囚人仲間から声をかけられた。記事を読んだらしい。


「よう、レイプ魔!恩赦申請したんだってな!」


みんなニコニコしている。本当の自分をわかってくれたのかもしれない。男は少し嬉しくなった。




◇ ◇ ◇




そして時は流れ、出所の日がやってきた。恩赦は効かなかったが、模範囚として20年の刑期を全うすることができた。男は早速、娑婆に戻るとネットカフェに行った。自分の記事を探すためだ。


事件を起こし、刑務所に収監された頃はネット自体、そこまで普及していなかったが、時は流れ便利になったものだ。携帯電話も20年前は単純に電話をするだけだったのに、今では四次元ポケットのごとく何でもできる。


男はそう思いつつ、自分の名前を検索した。


『あの凶悪レイプ魔が刑期を終えて出所したらしい!』


ネット掲示板はその話題で持ちきりだった。男は嬉しくなった。みんなが自分を話題にしているのだ。きっと正しく理解されたに違いない。


さて、俺はどんなやつなのだ?今度は図書館に行き、当時の新聞や雑誌を探した。


男のことを少年時代から知る人達の声を探した。男が逮捕された直後の同級生たち、近所の人達の声だ。


「いつかやると思っていた」

「昔から変な奴だった」

「友達も少なくいつも孤独だった」

「目があっても全く挨拶もなく、冷たい印象だった」

「女子からも全く人気がなかった」


男は思った。


「そうか、やはりみんなそんな風に俺を見ていたんだ。なんだかすっきりした。それならそれでいいじゃないか。もう悩むこともない」


別の声もあった。


「あんなことするようには見えなかった」

「いつも自分から挨拶してくれる明るい人だった」

「成績優秀で、生徒会の役員だった時期もあった」

「部活動を仲間たちと頑張っていて、主将にも任命された」

「弱い者いじめするやつに立ち向かっていた姿に慕う人も多かったのに、何があったのだろう」

「憧れている女子生徒も相当いたのにすごくショック」


男は思った。


「俺は一体どういうヤツなんだ――――――――――ッ!?」

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知りすぎたい男 青獅子 @bluelion

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