拝啓 手塚治虫先生

@shinkidou

第1話 漫画はアニメだった…

漫画は誰にでも描ける


手塚治虫の言葉であるが、実際には漫画を書き始めてから数年は漫画を描くことができなかった。

デジタル化で仕上げは簡単にできるし、ストーリーも難しくない。

漫画そのものが描けないのだ。


WEB小説とイラスト投稿がネットで当たり前の時代、出版社は漫画を集めるのに苦労しないはずなのに、なぜかマンガ家が足りない、と言う。

そして、1995年、平成7年をピークに漫画雑誌は売上が減少する。


どこかでピントが完全にずれているから。

そのピントを戻す必要がある。

まずは手塚治虫から始めよう。


JR宝塚線と阪急宝塚線の宝塚駅から宝塚歌劇団の宝塚大劇場に向かうと、その先には宝塚市立手塚治虫記念館がある。


ここにヒントがあるから。

そして、手塚治虫が言い忘れたことも。


★ ★ ★


「手塚治虫の漫画の描き方」という本にはネームの書き方が載っていない。

ネームの描き方はあまり重視していない、というよりも無視していたらしい。

つまり、ネームは自然に覚えるものだと。


ストーリーとアイデアを出すほうが漫画を描くよりも難しい、と判断したらしい。


手塚治虫が漫画を描いていたその当時、誰にでも習得している「???」をつかめば、誰も自然に漫画を描けるようになる、ということである。


そして、その「???」は当時のマンガ家にはあまりにも空気で自然につかめるために、あえて本に書く必要はない、と判断したらしい。


現在、その「???」がないために、漫画を描けずに苦労している人がたくさんいる、ということである。


その「???」とは、「アニメーターの感覚」。


★ ★ ★


手塚治虫を「漫画の神様」と一般に呼ぶ。


しかし、


手塚治虫を「最初のテレビアニメ監督」と言う人は聞いたことがない。

ここに現在の漫画の持つ問題がある、と見る。


アニメーションとは一秒間に24コマ絵を切り替える事によって、動いているように錯覚させ、静止画に生命を与える作業である。


日本の場合はTVアニメを実現させるために労力コストを最大限削減する必要があった。

その結果として登場したのが「漫画映画」。

もしくは「電動紙芝居」


カメラアングルを頻繁に変えることによって、効果音と合わせて静止画が動いているように見せる技法である。

動く部分は口もとと目など、細かい部分に限定する。


実際TVアニメの音を消して見ると、画面が止まっている感じを受ける。

効果音とカットの切り替えを使うことで、動いているように錯覚させているから。


ハリウッド映画とアニメ・特撮との最大の違いはこのカメラワーク。

極端なパース、動き回るカメラ、実相寺昭雄に見られるカメラワークはハリウッド映画の伝統には存在しない。


欧米の映画は演劇が基本になっているため、観客席からの画面が基本になる。

それに対して日本は絵巻物の時代からカメラアングルが実際の視点ではない。

俯瞰を多く使う、イメージの視点が基本になる。


アニメと特撮はカメラアングルを固定しないことで、実際の動画枚数以上に画面が動いているように見せている。


手塚治虫の漫画の書き方の基本はアニメの制作方法である。


★ ★ ★


動かない漫画は漫画ではない。

漫画は動くから面白い。

たとえ内容がなくとも。


静止画を動かす方法は、カメラアングルの切り替えと効果音、セリフなどの音響効果を使うこと。

だから漫画の効果音は書き文字にこだわる。


★ ★ ★


漫画の絵は記号


漫画の絵は現実を誇張 省略 変形したために、そういう見方もできる。

同時にアニメの創作法からすると、描きやすく、視聴者にわかりやすい絵である必要がある。


漫画の絵は「落書き」、ではなく「動きを見せやすい」、「わかりやすい」カメラアングルを変えやすい画風である事が前提になる。


アクション・シーンを前提にするのだから、イラストと違って、書き込みが多い絵は論外ということになる。


労力がかかりすぎる、というよりも、漫画の面白さはアニメと同じように「動かすことで生命を与える」ことにあるので、あまり意味がない、ということになる。


90年代に漫画の第一世代が相次いで引退するようになる。

その時、漫画がアニメであるという基本的な部分が抜けてしまう。

ここから動かない漫画が主流になり、漫画が売れなくなる時代が始まる。










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