異世界転生。俺に与えられたスキルが『水芸』だった件
ぼん@ぼおやっじ
第一章・転生しました
1-1 神様はシステマティック
1-1 神様はシステマティック
ほぎゃー、ほぎゃー!
赤ん坊の泣き声がする…なんだ…
『おめでとうございます。無事転生が完了しました。
続けて選択スキルの付与を行います。
…
……
………
スキル【水芸】の付与が成功しました。
以上で転生処理を完了します。
それでは『石動 海』殿の幸運を祈ります』
突然聞こえてきた声にびくりとしたが、おかげですべて思い出した。
そうだ。俺は死んで転生したんだ。
神らしきものにも会った。
死因は…なんだろ。圧死? 崩壊死?
あの日俺たちは修学旅行に出かけていった。
学校の用意したバスでとことこと。
うちの高校は金持ちじゃないので行く先は京都、奈良とありきたりだが、俺の家は定食屋なのでそもそも旅行自体したことがない。自営業は大変なんだよ。
なので結構楽しみだったんだ。
なのに気が付いたら真っ白い部屋にいた。
そこにはクラスメイト全員と先生とバスガイドと運ちゃんがいて、みんなが『一体どうなっているるんだ!』と騒ぐ中。一部のオタクと呼ばれる連中が、『これはひょっとして』『来たか? 俺の時代が来たか?』みたいなはしゃぎ方をしている。
いやいや、俺も普通に小説などは読むから彼らが何を言っているのかわかるけど、喜べることか?
下手すりゃもう二度と家に帰れないんだぞ?
そこまで現実に嫌気がさしているとも思われないから多分考えが足りないんだな。
そして案の定、俺たちの前に現れた白い人影に俺たちは死を告げられた。
「あなたたちは時空のはざまに落ち込み、空間と時間に引き裂かれ、お亡くなりになりました。俗にいう神隠しというやつですね」
とか。ふざけんな。
と思っていたら袖をつかまれた。
振り返るとそこには幼馴染の各務 桜がいた。
学校でもかなり順位の高い美少女で、子供のころは家が近いこともあってよく遊んだけどそんなのは小学校まで。
中学に入ると自然と疎遠になって高校も同じだったけど話す機会もなかったな。
「海ちゃん…これ何…」
何といわれても困るんだ。
だが俺は桜の腰を抱き寄せて根拠もなく言う。『大丈夫。きっと大丈夫』
何の根拠もないその言葉に桜は涙目で頷いた。
まあ幼馴染だしな。子供のころはいつも一緒だったしな。言ってみれば兄妹のようなものなのかもしれない。普段は会話がなくてもいざとなれば頼りになる。みたいな。
だったら期待に応えてやらないとな。
「桜はライトノベルとかよむか?」
「ううん、読まないよ。文学なら…」
おおう、そっち系か。こいつ頭もいいしな。
その間も白い人影の説明は続く。
どうやら俺たちはまれに出現する空間の裂け目にバスごと落っこち、時間と空間のゆがみにひき潰されて死んだらしい。
うん、あまり想像したくないな。
桜ちゃん真っ青。映像みせんなや。
で、この死に方はいろいろまずいらしい。
なんというか魂の存在質量が消失するんだと。
なのでこの白い影、神様もどきは拾える限り存在を拾って転生させるようにしているのだそうだ。
あっ、なんで神様もどきかというと本人が違うといったからだね。
神というのは人間の作った概念で、イワシの頭も信心。というやつで人間が祭って神様と呼べばそれが神様なんだそうだ。
だがそれは人間が勝手に呼んでいるだけで、本人たちがそう名乗ったわけではない。
自分たちはただそういう存在なのだ。と宣っていた。
「まあ、人間よりずいぶん高度な存在であることは間違いないな。しかも助けてくれたんだから敬うことにしよう。ごにょごにょ…」
「う、うん、私もそうする。ごにょごにょ」
俺の独り言は桜の承認を受けた。
なんか子供のころに戻ったみたいだ。
『さて、ではあなたたちに任意のスキルを一つ与えます』
おお、そんなことまで、なんて気前のいい。
『これは時空のはざまで傷付いてしまったあなたたちの存在を補修するためのものです。
そして、スキルを持つ以上、地球には帰れません。
あなたたちはスキルや魔法が存在する、そういう世界に転生します。よいですね』
「よいわけあるか! 地球に返せよ」
「いやよ、お母さんに会いたい」
「帰りたいよー」
うんうん、気持ちはわかる。だけどそれを今言っても仕方がないと思うんだよね。
それに、この神様(仮)に言っても駄目だと思う。いろいろな意味でダメだと思う。
『わかりました。ではあなたたちは地球に送り返します』
神様(仮)がそうつぶやいた瞬間クラスメイトが何人かこの場から消滅した。
神様(仮)の言葉を信じるなら地球に送り返されたのだろう。だがそれ以前に気になること言ってたよね。
「あの…わた(むぐ)」
隣にいた桜が声を上げそうになったんで俺は慌てて口を押えた。後ろから抱き着くような形でガッチリホールドして口を押えた。
左手がおっぱいをつかんでしまったのは事故だ。
まあブラジャーが硬いからあまりうれしくもなかったけどね。
『何ですか?』
神様(仮)が俺の方を向いた。いや、白い影なんでわからないのだけど、存在がこちらを指向している。
「あの、俺
『はい、問題ありません』
うん、この存在は…
「さっき、御身はスキルというのが傷ついてしまった存在を穴埋めするとおっしゃいましたが、先ほど地球に送られた者たちは…スキルをもらってないですよね。その場合どうなるんでしょう?」
俺の質問にその場にいた全員が息をのんだ。
いや、ほとんどかな、何人かは考えていたみたいだ。
そして神様(仮)の回答は明確だった。
『質問に答えます。あなたたちの肉体はすでにひき肉になっています。回収はしましたからそのひき肉と一緒に地球に送られることになります』
「えっと…生き返るのは無理…ですよね…」
『はい、不可能です。ひき肉になった肉体のそばで魂が朽ち果てるまでたたずむことになります。
あなたたちは正常な転生を行えるほど存在がしっかりしていないのです。
しかし心配はいりません、魂が戻ってきていれば朽ち果てたとしても存在質量の減衰はそれなりに軽減されます。
理想には遠いですが許容範囲です』
うわー…やっぱりだ…
この存在はものすごくシステマティックなんだ…ただ正確になすべきを成しているだけ…
この会話を聞いて地球に帰りたいといいかけていた者たちも口をつぐんだ。帰されたところで地縛霊にしかなれないんだから転生の方がましだろう。
『それではスキルの付与を始めます。一応付与できるものを見繕ってきましたので、一人一つ、お好きなものを選んでください。選んだものを二回クリックすると確定です。
転生先の文化レベルは中世を基準に前後する感じですね。自然はまだまだ人間にとって脅威です。それを踏まえて、ではどうぞ』
その言葉と同時に俺たちを光の繭が包んだ、そしてその繭は裏側にモニターのようなものがあってそこにスキルの一覧が並んでいる。
あまり大した量じゃないな。
上から…
・ アイテムボックス
・ 鑑定
・ 火魔法
・ etc…
そんなのが並んでいて、最初明るかったそれは一つ二つと暗く反転していく。アイテムボックスや鑑定などの定番スキルがパタパタと。
「まずい」
「ふえ」
これはたぶん制限があって、他人が選んだものは選べない。
本当に見繕ってくれたスキルを取り合うようなものだ。
そして先に行動しているのはオタク連中。
桜は当然わかってない。
あれ? 桜が一緒だ。まあ後だ。
俺はスキルの一覧をだーっと見ていく。
「あっ、あった。これはどんなスキルなんだろう」
俺が見つけたのは【パイロット】というスキルだ。それに振れると簡単な説明が出る。
【パイロット】=(水先案内人)
本来の意味だな。これはひょっとしたらいいものかもしれない。
そして確定しますかの文字。
うん、どうやらここでいったん考えられるようだ。
「これはどういうスキルなんだろう…」
それは独り言だった。だが…
『それは何か目的を定めたときにその目的のために何をすればいいのか助言をくれるスキルです』
おおっ、神様(仮)が応えてくれた。なぜだ? いや、いい。すごく助かる。
俺は隣を見た。
隣には桜がいる。
たぶんあまり近くにいたから一緒の繭の中にはいってしまったのだ。
他にもたぶん抱き合っていたような人たちは一緒の繭にいるんじゃないだろうか。相談できるのだからそれだけでも心強い。
「ひょっとして、魔法覚えたいとか、魔力を伸ばしたいとか質問するとその方法を教えてくれるスキルですか?」
『その通りです。最適解を助言してくれます』
「ひょっとして探し物とか、道案内とかもしてくれます?」
『はい、あくまでも所有者個人を中心に一定範囲内ですが、的確な助言を得られるでしょう』
よっし。
「桜、お前このスキル取れ」
「え? だって、これは海ちゃんが」
「お前臆病で泣き虫なんだからこの助言スキルは絶対役に立つ。だからとれ。きっと俺たちは同じところに生まれ変わるなんてできないから、このスキルを使ってうまく生きていくんだ。お前頭いいから大丈夫」
「そんな…」
愕然とする桜。あと一つどうしても確認しないといけないことがあったけど、あとまわしか。
俺はグダグダいう桜の指をつかみ、桜の指でモニターを操作させてスキルを選択させる。モニターは一人ひとつあるんだ。
だから俺が検討中のこのスキルは桜の画面では暗く反転している。でも問題ない。
「さくら、ちゃんと考えるんだ。他にどうしても取りたいスキルがあるならそれをとれ、だけどそうでないならこれをとれ」
俺はじっと桜を見る。こいつは人気者なんかやっていたけど基本的に気が弱く、しかも気い使いだ。俺のためにあきらめるとか平気でやる。
だけどおれだってただ無意味に長いこと幼馴染をやっていたわけじゃない。そんなのは目を見ればわかるのだ。そして目で圧力をかける。『ほんとのこと言えほんとのこと言え』…
「あ、ありがど…がいぢゃん…」
よし、俺は自分の選択を解除すると同時にさくらにそのパイロットを選択させた。
これでいい。
おっと神様(仮)がこっちを見ている。恥ずかしいぜ。
そんなやり取りをしていたからスキルはほとんど選択がすんで反転している。
俺最後の一人かもしれない。
残っているのは【水芸】【人形遣い】【まじない】【穴掘り】の四つだけ。
「かいちゃん… かいちゃんごめん…」
「いいんださくら、いいんだよ」
俺は男で桜は女で、そして俺たちは家族だから、いいんだ。
さて、では一応このスキルの能力を聞いてみようかな?
『もうそろそろ猶予切れです』
と思ったらそんな時間はなかった。
一応みんな触ってみる。
【穴掘り】=(穴を掘る)
そのまんまや。
【水芸】=(水を操る)
うんもうこれでいい。
目の前でカウントダウンが進んでいく。08…07…06…
よし、もうこれでいい。たぶん水があればどこでも生きていける。
ぽちっとな。
…02
せーふ、ぎりぎりセーフ。
しかしタイムリミット有りなのか…
『あなたたちは存在的に瀕死ですから治療が間に合わなければ終わりです』
あっ、そういう意味なんだ。
マジでやばかった。
『全員の選択がなされました』
俺たちの繭が解除されると他はすべてもどっていた。
「おまえたち、ずいぶん長かったな。繭の中で何かいやらしいことをしていたんじゃあるまいな」
一人の少年がそう言ってつかつか歩いてきた。
見た目ばっちり、金持ちで女にもてる、でもおバカな甲斐田 雷音くんだ。
学級委員長で桜にも粉をかけていたな。
「桜君、たまたまそばにいたせいだろうか、そんな奴に頼らずに私を頼りたまえよ、私は雷魔法を取得したのだ。
勇者の素質ばっちりさ。きっと君を幸せにしてみせるよ」
桜はさっと俺の後ろに隠れる。
あー、行動パターンが昔に戻っているな…
仕方ない。
「委員長、良いスキルを得られたようで何よりだ」
「お前は何を選んだんだ、最後はろくなものは残ってなかったはずだが…」
「何だ見てたのか。まあ気にするな、生きていくには役に立ちそうなスキルだよ」
「大道芸人にでもなるつもりか?」
「ああ、それも悪くないかな」
中世レベルということなら下手をすると農民はかなり苦労をしているかもしれない。地球の歴史でも大道芸人というのは…まあ悪くない生き方だろう。
「さあ、さくらくん」
雷音がそう言って桜の腕をつかもうとする。
本当にナチュラルセクハラ野郎は困ったもんだ。
「俺たちってどこに生まれ変わるんでしょうか? また赤ん坊からなんですか?」
俺は雷音を妨害するようにそう口にした。
『はい、そうなります。生まれ変わる場所は完全にランダムです。生まれてくるタイミング、性別などをフィルタリングして決まります。
一部の例外を除いて』
この一部の例外というのはスキル【貴族の息子に生まれる】とかだろうな。そんなのもあったから。
雷音はバカだからそのセリフの意味を理解できなかったらしい。咀嚼するのに時間がかかっている。
つまりここで別れたらまた会える保証などどこにもないし、どんな環境に生まれるかもわからないということだ。
『ではそろそろ転生を開始します。君たちの検討を祈ります』
あっ、いかん、肝心なことを聞き忘れた。
「すみません、記憶って持ち越せるんですか?」
『はい、記憶は持ち越せます。ただ知識はある程度に…』
最後まで聞けなかった。
一人一人が薄れて…いや、俺もか、すべてが白に塗りつぶされていく。最後に桜が抱き着いてきた。思い切り抱きしめ返す。
なのにその感触は感じられなかった。
そして気が付いたらほぎゃーだったわけだ。
はてさて、俺の境遇やいかに。
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
ちょっと修正しました。最初なのでちょっと長いです。
ポチポチ投稿するつもりですのでよろしくお願いします。
ついでに作者の別作品『かわいい尻尾嫁』もよろしくお願いします。読んでみてください。
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