七つ目の噂~Web写真部の活動記録~

大月クマ

Web新聞部の活動記録

「えぇー本日は、お日柄もよろしく……」


 スマホのカメラの前で、部長が笑顔を振りまいている。

 我らWeb新聞部部長は、外見は美人の部類に入るだろう。

 高身長に大きな瞳、さらさらのロングヘアーに白いヘアバンドを着けた姿は、理想的なお嬢様だ。

 ホントにお嬢様らしいが……ただ、性格さえよければ、モテるだろうに……。


「おい、今は夜だぞ!」


 柔道部にいた方がいいのではないか? そう思えるこちらは副部長。


「ちょっと! 変な突っ込み入れないでよ……撮り直し!」


 そうボクがスマホの動画を撮っているのは、夜中の我が高校。

 時刻は、丑三つ時――とは行かずに、午後8時を過ぎたぐらいだ。

 一週間後に迫った文化祭の為に、ウチの高校は本日から夜の時間を開放している……と、いっても10時ぐらいまでだけれど。


 今日は、その一日目。


 この夜間開放時間に、文化祭の準備をしろと言うことであるが、みんなタカをくくってほとんど残っていない。

 どうせ前日か前々日に大騒ぎするだろうに……。

 この開放時間は意味あるの? と、思ったが、去年もそうだったがちゃんと準備で作業しているところもあるので、学校側でも辞められないのだろう。


 なので校内は結構、静かだ。

 思い出したように、トンカチの音がたまにこだまするぐらい。


「では……我々、Web新聞部の文化祭の特集は……

 なんと、なぁ~んと!」


 再び回り始めたスマホの前で、部長はもったいぶってクルリとい一回転。長い髪の毛を振り回すと、レンズに向かって指をさした。


「学校七不思議の解明に挑みたいと思います!!」


 勿体ぶって、読者の皆さん。申し訳ありませんm(_ _)m

 なにせ……アイデアがなかった!


 高校生にもなって、七不思議ですか?


 と、ボクは文句を言ったのです。

 が、「キミ、だったらアイデアあるの? ねえ、アイデアあるの!?」と責められて……。


 ゴメンナサイ(涙) 何も思いつきませんでした!


 副部長は、部長のイエスマンなので文句は言いますが反対しません。


「はい。カットッ!」


 その副部長は今のところ、動画の撮影を仕切っている。

 ボクらは昇降口で適当にオープニングを撮って、次の場所に移動になっていた

 まあ三人しかいないWeb新聞部なので移動は簡単。

 そもそも、ウチの部活……いや、3人しかいないので同好会止まりなのだけれど……。


 とにかくだ。新聞部は別にある。

 そして、この部長が「紙で出すのは古くさい。もう時代はWebよ」と、先見の目があるのかどうかボクには解らないけれど、部長と副部長が独立して作ったのがWeb新聞部。

 それが去年の話。

 ボクは大人しく新聞部にいたかったのだが、部長に引きずり込まれた次第。


 なんで断らなかったかって? 下心がなかったわけでは……いやいや、そんな話をしているのじゃなかった。


「――それで、ウチの学校の七不思議というのは?」

「まずは、音楽室の肖像画の目が光る」


 言い出しっぺの部長は動かないので、ボクがほぼ調べてきた。

 ボクがメモを見ながら話していると、部長は奪い取って読み始める。


 1.音楽室の肖像画の目が光る

 2.講堂のひとりでに鳴るピアノ

 3.歩く二宮金次郎像

 4.1段多い階段

 5.開かずの地下室

 6.動く骨格標本


「何これ?」

「ウチの学校の七不思議ですけど……」

「どこでもありそうなモノばかりじゃないの! もっと変わったモノはなかったの?

 それに6個しか無いじゃないの」


 そう、七不思議というわりには実は六つしか無かった。

 それには理由があって……。


「七つ目を知ると、良くないことが起こるとか……」

「それよ! 七つ目は調べたんでしょうね?」

「……」

「何よ。調べてないなのヽ(゚Д゚)ノ」

「良くないことが起きるんだったら、知らない方が……」

「真実を追い求めるのが、ジャーナリストじゃないのよ! 知る権利のためにそんなことを恐れていて、どうするの!?」

「知らせない権利も……」

「(`へ´)フンッ。 だからキミはつまらない人間なのよ」


 鼻で笑ったなヽ(゚Д゚)ノ

 ボクを馬鹿にしたな。部長が危険にならないように、と調べなかったのに!

 でも、見下した目……何かゾクゾクっとして、快感に――。


「まずキミが調べた6個だけど、半分はここで証明できるわ。後は現地で説明してあげる」

「どのように!」

「3.4.5だけど。

 歩く二宮金次郎像だっけ? まずウチの高校には二宮金次郎像は無いわ。小学校でもあるまいし……なのでこんな不思議はおかしい。

 次、一段多い階段だけど、単なる数え間違い。下りるか、上がるかで1個目の段が変わってくるのよ。踊り場と下の階の廊下とかで、ずれが発生するモノなのよ。

 さて、開かずの地下室ねぇ……開かずの地下室はあるわ。ちょっと調べれば解るけど、学校の歴史をよく読みなさい。昔、軍がここを接収して裏山に大きな地下防空壕を掘ったのよ。

 今は崩壊の危険があるからって、立ち入り禁止になっているけど……その防空壕に繋がる入り口が校舎にあるわ。

 職員室の隣の半地下。物が一杯なっているところがその入り口」


 サラサラと部長は推理を並べた。

 ボクが折角調べたことだけれど……なんだか片手を腰に当て、呆れた顔で答えている部長を見ていると、そんなような気がしてくる。


「ちゃんと、このやり取りも撮ってる?」

「バッチリですよ、部長!」


 と、副部長。

 撮っていたのかよ……。


「さあ、音楽室の肖像画の目が光るっていうのだけど……現地で確かめていましょう。

 まあ大体、解っているわ」


 と、部長は大腕を振って薄暗い廊下を音楽室に向かって行った。


 もう解っているって、どういうことだよ?


 ※※※


 ボクらは、そのまま3階の音楽室へ……。

 ここはほとんど人がいないので、廊下は明かりが付いていない。

 不気味な中を、スマホのライトで進む……と、お目当ての音楽室へやってきた。


「……ここね」


 さすがにカギが掛かっているので、扉のガラス越しに中を覗いた。

 壁際に例の肖像画が並んでいる。

 ボクがそれに光を当てると……


「あっ、光った!?」


 ギラリとひとつの肖像画が輝いたではないか!


「大声を出さない。よく見てみなさいよ。やっぱりイタズラよ」

「へ(?_?)」


 部長に言われるまま、よく見ると……ギラリと光った肖像画、目の場所に何だあれ!?


「誰かが目に画鋲を挿したのよ。光を反射して目が光っているように見えるだけ。

 今度、先生にいって、取ってもらいましょ。

 次は……講堂のひとりでに鳴るピアノね」


 そういうと、さっさと部長はその場を後にする。


「講堂まで行くのに時間が掛かるから、その前に言っておくけど……」


 講堂への行きがてらに部長はそう話し始めた。


「もう謎が分かっているんですか?」

「確実じゃないけど……最近、不審者が多いから学校のセキュリティは万全なの。

 音とかも反応するはずなのに、していないということは……鳴っていないのか、鳴ってても問題ないと言うことは……」

「誰かが鳴らしている?」

「少しは頭を使ったようね。

 ウチの学校の大杉先生っているでしょ。音楽の……」

「ああ、あのチビッコ先生」


 ボクは大杉先生に担当されたことはないが、身長が140センチ前半の小柄の女性だ。

 なので、みんなから『チビッコ先生』と呼ばれている。


「その先生が、ピアノの練習をしていたら、どうかしら?」

「物陰に隠れて見えないと……」


 部長の推理はあっているような気がするが、それじゃ面白くない。

 折角、調べたのに(涙)


「ああ、講堂まで行くの面倒くさくなったわ」


 と、部長は階段の踊り場で立ち止まった。


「結局、七つ目は知らないの?」

「俺知っているかも……」


 副部長がそう言って手を上げた。

 何を知っているって言うのだ! ていうか、知ってしまうと良くないことが起こるから、やめておいたのに!


「鏡の中の扉が異世界に繋がっている、っていう奴……」


 副部長がそう言った途端、部長の目が輝いた……ように見えた。


「それよ! 子供だましの不思議じゃなくて、そういうのを求めていたのよ」

「そんな、嘘っぽい……異世界に繋がっているなんて……」


 ボクの放言を部長は、もの凄い目で睨んできた。

 何かこの人の琴線に触れることがあったのだろうか? 異世界に繋がっているなんて……

 でも、その目が――


「そこはどこよ!」

「美術室の前です」

「行きましょ!」

    

 と、部長は大腕を振って薄暗い階段を、今度は美術室へ向かって行った。


 ※※※


 ボクらは、続いて1階の美術室へ……。

 ここも人はもういないようで、廊下の明かりが消えている。

 美術室の前、廊下の突き当たりには、大きな鏡が備え付けられてあるが、それが副部長の言っていた鏡なのだろうか?

 何十年も前の卒業生からの寄付らしくかなり大きい。

 どれぐらい大きいかって、天井から床までの高さの、一回り小さいぐらい。反対側の廊下を映しだしているので、慣れていないとまだ廊下が続いていると思って、突っ込んでしまいそうなぐらいだ。


「これが、その鏡ね!」


 部長は声を弾ませているが、明かりがない真っ暗な反対側の廊下を映し出していて不気味だ。


 でも、扉は映っていないような……。


 絶妙な大きさなのか、廊下に並んでいる他の部屋の扉は、鏡の前に立つと開いているのかよく解らない。

 まあ 今は真っ暗だからなおさらか……。


「扉、扉……」

「キミね。扉って言ってもいろいろとあるわよ。教室や部屋の扉は開いているかは見えない。

 例えば、天井のメンテナンスハッチとか、消防ホースの扉とか……」

「それが異世界に繋がっている、フッ!」


 ボクは吹き出してしまった(笑)

 そうしたら、部長はもの凄い形相で睨み付けてきている。


「副部長! ちょっとあそこは……図書室じゃないかしら!」

「そうですね」


 鏡の反対側、廊下の先……暗くてよく見えないが、薄らと扉が見える。

 そういえば、校内案内図上では図書館の書庫になっていた。


「ちょっと見てきなさい!」


 と、副部長を走らせる。


「――カギが掛かってまーす!」


 当然だろう、書庫なのだから……。


 鏡を見ると、遠くて薄らとしか副部長の巨体が見えない。

 もちろん、書庫の扉は見えない。

 昼間に見た時は……たしか、重苦しい木の扉だったはず。


「よく見えないわね……。

 明かりで照らしてくれなーぁい!」


 副部長が大きく手を振って、スマホの明かりで書庫の扉を照らし出した。

 と、どうだろう。

 鏡の中のその扉が、距離もあってか開いているように見える。


「これが、異世界に繋がっている扉かしら……」

「どちらかというと、スマホの光じゃないですか?」


 また、部長が睨んできた。

 やっはりお嬢様のわりには、こんなメルヘンチックなことを……って、部長はその光、鏡の中の扉のような、光の点に手を伸ばしはじめた。

 繊細さが宿る指先が鏡に触った。


「あっ、いやーあああぁ!」


 その途端、部長の悲鳴が上がる。


「ぶッ、部長ッ!」


 なにせ、鏡の中の扉、光の扉の中に手が吸い込まれていくのだ。

 そのまま肘が、肩が、頭が、長い髪が、腰が……どんどん吸い込まれていく。

 慌ててボクは、部長の白く細いふくらはぎを掴んで、鏡の中から引き戻そうとした。だが、ボクの身体まで飲み込まれていく。引っ張り出そうと、鏡に足を踏ん張ったがそこから飲み込まれていった。まるで底なし沼だ――入ったことはないけれど……。


「部長ッ!」


 副部長の声が聞こえた時には、部長の身体は中に消え、ボクの首が飲み込まれるところだった。


 ※※※


 真っ暗だ……。

 あッ、なんか溺れるような気がして、ボクが目をつぶっているだけか……


「いつまで脚にしがみ付いているのよ! 気持ち悪い!!」


 顔面に激痛が走った。

 目を開けてみれば、部長がボクの顔を何度も蹴飛ばしている。


 痛ッ、あっ、痛い……痛いなぁ(*´д`*)


「早く離しなさいよ。ヘンタイっ!」

「すっ、すみません……」


 ボクは慌てて、手を離し正座した。なんか脚の間から、黒っぽい物が――


「何なのよ、ここは……」


 不機嫌になる部長。


 その黒い物よりも、何だここは?


 見た感じ、薄暗い神殿のような場所。石作で、そうボクらを中心に火の付いたロウソクが何本か立っている。

 そして、その間にフードで顔を隠した人もいるではないか!


「まさか、まさか、成功するとは……」


 そのひとりが、フードを取った。

 金髪で碧眼の美少女!?

 でも、なんで言葉が分かるのだろう?


「ああ、勇者様!」


 と、部長に駆け寄っていく。

 ボクのことを一瞬見たが、その見下したような目は何だ(*´∀`*)ポッ


「どうぞ、わたし達の世界を魔王からお救いくださいまし……」


 といって、金髪碧眼は部長の手を握りしめた。


 ここから始まるのは、〝大〟勇者ブチョーと、その〝小〟従者ボクとの冒険の始まり……。


 かな?

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