⑧ ミナミコアリクイ

イエス様ごっこ

私はフレンズの殆んどは大好きだ。

飼育員として働きながらも、担当以外のフレンズとも仲が良く休みの日には女子会なんてやったりしている。


そんな私だけど、一人だけ“嫌いなヤツ”がいた。


そんな彼女が、奇しくも私の担当だった。


「おはよう...」


「おはようのポーズ...!!」


「...何してんの?」


「な、何って挨拶だよ!」


ミナミコアリクイ。

彼女がとても嫌いで仕方がない。

いちいち、反応がウザくてウザくて仕方がない。


異動願いも出したが、入れ替わってくれる人がいないという理由で却下された。


「どうしてジュンナはわかってくれないかなぁ...」


彼女は首を傾げた。


「わかってるわかってる」


何か性格がイヤだった。


「じゃあ、今日は外で遊ぼう!」


「.....はいはい」


何故だろう。心の底に嫌悪感を抱いていた。

そういう気持ちは基本我慢で抑えてきていたのだが...。


とても今日は何かイライラし、不意に魔が差してしまった。


庭に出て走り始めた彼女を腕を組み見守る。

だが直ぐに私のもとへ、戻ってきた。


「ねえ、遊ぼう?」


ウザい。


「じゃあ、これ取ってきなさい」


適当にテニスボールを投げた。


「あっ!」


所詮動物。

こういう遊び道具で満足する。


取りに行ったミナミコアリクイの背中を見る。

その隙に懐から、小型のエアガンを取り出した


「...ほら!取ってき...」


振り向き様に彼女の顔に銃口を合わせて、


パンパンパンッ!


と3発、撃った。


「あッ...!!」


彼女は急に右目を押さえた。

弾が目に当たったのかもしれない。


「い...、いたぃ...」


彼女は今、どんな気持ちだろう?

ずっと連れ添ってきたパートナーがいきなり裏切ったら、どう思うだろうか。


「な、なにすんだよ!」


片目を瞑った彼女がよろよろと立ち上がった。


「えー、遊んであげてるだけじゃない」


「あれが遊びかよ!」


とてつもなく両手を上げ怒っている。

このポーズがウザくてウザくて仕方がない。


「もっと遊ぼうよ」


私は軒下から草刈り機を取り出し、エンジンのヒモを引いた。


ウィイイイイイイン...


「鬼ごっこしようか!」


「や、やめろよっ!!」


彼女は逃げたが。


「あッ」


躓いて転んだ。

アホらしい。


私は容赦しない。


彼女の尻尾に草刈り機を近付けた。



ギッシャァァァアアアアアア!!


「ぎゃあああああああああぁぁぁぁ!!!!」


尻尾から噴水のように血が出る。


「コアリちゃん捕まえた!」


「や゛、やめろよぉおおおおお...!!!」


彼女は泣きじゃくって、醜い声をしていた。

ああ、もっといじめたい。


「じゃあ、今度はねえ...。これにしようかな!」


庭の倉庫から私が持ち出したのは、

電動の釘打ち機だ。


釘は補填してある。この機械をコアリクイの好きな部分に押し当てれば良いだけだ。


「今度はねぇ、イエス様ごっこしようか!」


彼女の掌を無理矢理広げ、


「あああああぁぁぁぁぁ...っ!!

い゛だい゛よ゛っ゛....!!」


右手の手のひらにいくつも釘が順序良く埋め込まれていく。


彼女の手は赤くなっていた。


「うーん、こっちもやろうね」


「や゛め゛でぇ゛ぇ゛ぇ゛っ゛!!!!」


左手にも釘を刺した。

彼女は釘を打ったから、痛さで手を自由に動かせないし、あのウザったい威嚇もしてこない。


「うぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ.....」


だけど、鳴き声がうるさいな。


「うるさいよ、静かにしてよ」


追い討ちをかけるように、太股にも釘を数本打ち込んでやった。

太股からも、血がいっぱい流れた。


「あああああぁぁぁぁぁ!!!!」


あまりにもうるさかったので仕方なく、口をガムテープで塞いだ。


手はどうせ動かすだけで痛いに決まってる。

動かせば苦痛を伴う。

でも、念のため関節にも打っておこう。


「―ン゛ン゛ッ!!!!!!!」


肘の内側と肩に釘を打ち付けた。

彼女はもう動けないはずだ。


「ンンンッ!!!!!ンンーッ!!!」


泣きながら何か叫んでいるが、知ったこっちゃない。


どうせ尻尾はまた生えてくるし、いざとなったらセルリアンに襲われたって虚偽の報告しておけば良い。


私は彼女を無理矢理引きずって倉庫の中に入れてやった。


「ンンンンンンンンンッ!!!!!」


そのウザったい声を遮る為に倉庫の扉を閉めて、鍵もかけた。


尻尾は黒いごみ袋に捨てた。

準備したり遊んだり片付けたりで、もうすぐ午後15時だ。


ピンポーン、とチャイムが鳴った。


「はーい!」




「ジュンちゃん、ミナミコアリクイちゃんは?」


友達のクジャクが、そう尋ねた。


「今日はねぇ、定期検査の日だからセントラルの大きい病院に行ってるんだ」




クビになるのも嫌なので夜になったら倉庫から出そう。


死んでたら、どうしよう。

…まあいいか。



心の中でそう呟いて、

彼女達と楽しくお茶を飲んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る