第11話 【回想】革命を起せ!一年女子連合軍
ある日の、二時間目と三時間目の間の十五分休憩の時だ。
同じクラスでやはり『赤御門様へのお弁当お届けレース』に参加している子がやって来た。
「天辺さん、ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
彼女の名前は佐野美香子。
カチューシャをしたロングヘアの綺麗な子だ。
「いいけど、なに?」
「天辺さんも何度か『お弁当お届けレース』に参加しているから解ると思うけど、今のままじゃ私たち一年女子は、絶対に勝てないと思うの。セブン・シスターズはもちろん、上級生達は手を組んで、新参者を排除しているからね」
あたしは無言でうなずいた。
確かに今のままでは、あたし達一年女子が勝ち残るのは難しい。
セブン・シスターズの連中は自分達のグループを持ち、クジ引きで有利な位置を占めている。
そしてさらに成り上がりを防止するための『妨害役』まで配置しているのだ。
佐野さんは続けた。
「だから私たち一年女子も、団結する必要があると思うの。バラバラじゃ上級生達に太刀打ちできないわ。もう他のクラスの子とも連絡を取って何人か集まっている。だから天辺さんにも、私たちのチームに加わって欲しいの」
・・・う~ん・・・
あたしは少しの間、考え込んだ。
彼女の言う通り、確かにあのレースは単独で勝ち残る事は難しそうだ。
だからと言って、単純に徒党を組んだくらいで勝てるのだろうか?
セブン・シスターズの連中は、雲取麗華、天女梨々花、咲藤ミランを中心として、それぞれ役割が与えられている。
つまり彼女達を勝たせるように、チームとして戦っている訳だ。
ただ集まっただけの烏合の衆で、対抗できるとは思えないのだが。
「せっかく誘ってくれて悪いけど、二~三日、考えさせてくれるかな。今すぐには答えが出せないから」
あたしがそう言うと、佐野さんも軽い調子で答えた。
「いいよ。じゃあしばらく待ってるから、考えが決まったら教えてね」
そう言って彼女は自分の席に戻った。
実はあたしは、ここ何回かレースに参加した事で、セブン・シスターズ軍団のほころびが見え始めていたのだ。
自分一人なら、その隙を突くことが出来るような気がする。
それに何故か、彼女達の計画は失敗するような気がしたのだ。
その後、七海に「一年女子チーム結成」について相談してみた。
「一年連合ねぇ、悪い考えじゃないけど、うまくまとまるのかなぁ」
彼女もちょっと懐疑的だった。
「まぁ美園の言う通り、二~三日様子を見てからでいいんじゃない?」
七海は、この頃には既にだいぶレースに対する意欲を失っているようだった。
その後、二日間ほどは一年女子連合は、交代でスタート位置を決め、また一番手・二番手をフォローするためのガード役を決め、うまく回っていたようだ。
もっともあたしの方は、単独でも十~十五番手くらいには食い込めるようになっていた。
ただどうしても、最後の六番から十番までを占める妨害役の集団を、突破する事が出来なかった。
あたしはまだ迷っていた。
確かに一年女子連合のチームに入れば、順番にだがいいスタート位置に着ける可能性が高い。
妨害役もガード組が守ってくれるだろう。
だが逆に言えば、自分が一番手・二番手以外の大半の時は、ガード役に徹しねばならない、という事だ。
そして三日目、事件は起こった。
あたしがクジ引き後のスタート位置に並ぼうとした時だ。
一人の一年女子が文句を言っているのが聞えた。
「だってこの前、私がアタッカーだった時、二列目五番だったじゃない!なんで一列目三番を渡さなきゃならないのよ!」
「そこは最初に決めたじゃない。アタッカーはその日にクジ引きで一番いい場所にしようって」
「そんなの納得できない!だったら、この前の時にいなかった人は全員ガード役にしてよ。そうでなきゃ不公平だよ!」
文句を言っていた女子は手を振りかざして、そう叫んだ。
「今更そんなこと言ったって!最初にみんなでそう決めたんだから!」
「そうだよ。誰がいいクジに当るかなんて分からないじゃない!」
「あなた一人、自分勝手なことを言わないでよ!」
「あたしだって、自分がいい場所の時に我慢して譲ったんだから!」
周囲の女子が彼女を攻め立てる。
ついに不満をぶつけていた女子が怒鳴る。
「だったらもういい。あたし、こんなチーム辞める!ちっとも公平じゃない、やってられない!」
あちゃ~、やっぱりそうなったか?
こういうことになるような気がしたんだよな。
『少ない人数だと、いいスタート位置が取れない』
『多い人数だと、自分が一番手になるチャンスが回ってこない』
それに今回のように
『自分が一番手の時に大して良いスタート位置ではないのに、自分が良いクジを引いた時に他の人にそれを渡さねばならない』
という事は、当然発生する。
そりゃ不満も出るだろう。
いわんや後から参加した人が一番手に入ったら、前から参加している人は不満になる。
『一列目三番』を取った彼女は一年女子連合を抜けていった。
こうなると、後はもう歯止めが利かない。
ボロボロとみんな辞めていく。
自然崩壊だ。
セブン・シスターズの三人は、それを嘲るでもあざ笑うでもなく、冷ややかに見ていた。
おそらく過去にも同じような事があったのだろう。
チーム戦と言うのは、中心となって引っ張っていく人間が必要だ。
セブン・シスターズの場合は、彼女達のカリスマ性と金銭的見返りなどがあるから、集団が成立のするのだ。
そう言えば実際の革命も、大抵は内部分裂か内ゲバで崩壊しているもんね。
『一年女子・革命軍』は一週間と持たずに、『三年女子・王制軍』の前に敗れ去っていった。
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