第39話 託される希望
〔終わりだ
水柱の上の紫の竜と少年に、無数の黒い竜の首が襲いかかる。
「〝
だが少年は抜刀すると、刃から
〔こんなもんが通じるかああああああああああああああああっ!!〕
黒い竜の首は津波を突き破り、勢いを増して少年と紫の竜に迫る。
「〝
対して少年は刀を
〔……ちっ、こんな技を持ってやがったか〝
しかし黒い竜の
「……左様、かつて
紫の竜の背……大きな屋形の屋根で津流城は刀を強く握り、
「世界を
〔それで今じゃ世界の大悪党、〝封印災害指定〟か〕
「……
憎まれ口に津流城は声を硬くして、
「未熟が
一転、迷いを払ったように力強い声で、
「
〔御屋形様だと? 父上が何かしたのか?〕
「否!」
竜の首の希望を一刀両断するように堂々と、
「我が主君は
〔完全に裏切りやがったか!! あれだけ父上が目をかけてやったのに!〕
黒い竜の首が逆上して津流城をにらむ……が、
「
後半はつぶやくような小声で言った津流城だったが、再び堂々として、
「ともあれ、御屋形様の
瞳も
「そして現世の秩序と正義も、決して
無数の黒い竜の首が硬直した。
「何より……真に
瞳と声、そして刀を握る手に信念を
「かくして目を開かれし某は、己が〝天命〟に目覚め、全身全霊に誓ったのでつかまつる。すなわち──」
荒ぶる
「この世は
黒い竜が震えを激しくする中、
「迷わず、
〔ドン底まで落ちぶれたか〝妹の搾り滓〟め!!〕
黒い竜が紫の破片を光らせ〝異元領域〟を強力な振動で満たす。
見渡す限りの黒い水面にそそり立つ無数の黒い竜の首が、同じ振動率で震え共振することで空間が崩壊するような振動を発生させているのだ。
「ぬおっ……!?」
「こ…このような術を……
ザバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ
亜空間を丸ごと揺るがす振動に水面は
〔
ピシッ……ピシピシッ……!
空間そのものが襲ってくるような振動に圧迫され、紫の竜の胴体である屋形に
〔なにいっ!?〕
津流城の周りに
〔その刀……〝
「左様にございます。刀をあなたの振動と反対の振動率で共振させることで、あなたの振動を打ち消したのでございますよ」
〔馬鹿な……たった8本の刀の振動だけで……!〕
「これも〝
津流城が
〔くそ……いつもいつも邪魔しやがって〝
「……貴殿の
「……なに?」
「〝妹の搾り滓〟……幼き日、〝里〟に身を置いていた
さらに声を重くして、
「我が妹を〝
目元を不快そうに歪め、
「
口元を
「……なれど、左様な
一転、紫の欠片を握りつつ
「……なれど、新たな境遇は新たな苦悩をも某にもたらしたのでつかまつる」
再び声を重くして、
「某が〝都牟刈〟の屋形に迎えられて間もなく、沙久夜様は石化の
紫の欠片を強く握りつつ唇を噛み、
「幼き日、まさしく〝搾り滓〟……フラッターに等しき身であった某は、日々
〔……それが
息をのむ黒い竜の首に、津流城は覚悟に燃える瞳を向け、
「左様……なれば某は、妹が東の本家に
〔……!〕
「そして日々精進を重ねた某は、沙久夜様より
〔それは……〕
沙久夜から
だが、津流城は強くなるため自ら〝里〟を出て行った。
己の弱さを知りながら〝里〟に引きこもっていた自分とは……『お山の大将』とは初手から違っていたと思うと、言葉を続けることは出来なかった……しかし、
〔……勝手ばかり言うんじゃねえ!!〕
見苦しいと知りつつ吐き出すのは、
〔忘れたとは言わせねえぞ! 誰が〝里〟を地獄に……〝
「……無論、覚えているのでつかまつる。我ら兄妹がいた
顔を曇らせつつ、強く握る
「その重圧に〝里〟の者たちは心を
思い出すだけで冷や汗しつつ、
「無惨な死体が
必死に震えを
「そして〝里〟を魔窟と
加えて苦い記憶を回想するように、
「思い返せば……〝里〟の者の某への暴挙も、日々襲いくる身を削るような重圧の恐怖から
「
〔そうだ……昔、お前ら兄妹がいた頃の〝里〟は……どいつもこいつも、毎日毎日、死の恐怖に
黒い竜の首の憎悪に震える声……しかし、
「……なれば、我ら兄妹が
〔ふ…ふざけるな!!〕
〔そもそも沙久夜やお前らが〝里〟に生まれなければ何も起きなかったんだ!! 〝里〟があんなになることも! 母上が野心に狂うことも! 俺が……劣等感に押し潰されることも!!〕
〔だ…だが、今度はそうはいかないぞ……いま火焚凪は水牢に入ってるが、昔みたいな重圧は感じないからな……何日か前に俺が水牢に行った時も、そんな重圧は──〕
「貴殿が右腕を
〔う…うるせえ! 大体〝里〟に
なけなしの自信を斬り捨てられたように逆上し、
〔だったら〝鬼子〟も怖くはねえ! 多少強くなった〝搾り滓〟程度に負けるようじゃタカが知れてるからな!!〕
「確かに妹を
それは、妹への信頼か、
「すなわち
あるいは、己の力量への理解か、
「訳合いの1つは、御屋形様に
はたまた、同じ主君を
「今1つは……今の
……否、それは長き苦難を乗り越えた者のみが
〔雌伏の時だと……?〕
「虫は卵から
〔なに……?〕
「幼き日〝里〟にいた
〔何の話だ……?〕
「今、
かすかに身震いしつつ、
「
〔……!?〕
「貴殿も耳にしているでつかまつろう。この数日、〝里〟に現れる女の幽霊の噂を」
〔!?〕
黒い竜の首は、自室の鏡に白い着物の少女が写ったことを思い出し……
〔ま…まさか……〕
「
黒い竜が絶句し、津流城も遠い目をして、
「某もまた、先刻〝幽霊〟を目にしたのでつかまつる。某を
微苦笑しつつ
「左様な
〔なんだと……それじゃあ〝里〟はまた……〝暗黒節〟みたいな地獄に沈むっていうのか……!?〕
黒い竜の首が
〔だったら、どうして止めない!? なんで放っておく!? また昔みたいな……いや重圧が昔以上なら、今度は〝里〟どころか……!」
「左様。今の
〔だったら……!〕
「
主君への信頼と忠義に満ちた声に、焦燥していた黒い竜の首が
「今はまだ、〝時〟に致っておらぬのでつかまつる」
〔……なに?〕
続いた不穏な言葉に、黒い竜の首は再び不安をもたげさせ、
〔どういうことだ……今回〝暗黒節〟を阻んでも、〝時〟が来れば世界は地獄に沈むっていうのか……?〕
「
「左様な地獄こそが……〝破壊〟こそが我らの、そして我が主君の御意思なのでつかまつる」
見渡す限りの黒い水面に立つ無数の黒い竜の首が、時が止まったように固まった。
「我らはこれより、世界の革新を
主君の言葉を噛みしめるように、
「新たな世界を〝創造〟すべく、我らは古き世界を〝破壊〟するのでつかまつる」
さらに固まる黒い竜の首………だったが、
〔……はっきり、分かったぞ……〕
ほどなく、抜け出た魂が戻ったように声をしぼり出し、
〔結局、お前も妹と……〝鬼子〟と同じだ……〕
魂が
〔兄妹そろって世界の敵……〝封印災害指定〟だ………〕
あるいは、常識や秩序の及ばぬ〝異物〟に
「今やその〝指定〟は、我が主君に
〔悪魔に
揺らがぬ少年に常識や秩序を超越する〝
「いつの世も新たな時代の波に乗れぬ者は、世を革新せんとする者を
〝傑物〟は
「しかる
淡々とする中に誇りをにじませ、
「そして我が主君以下、元より〝常識破り〟こそを〝常識〟とする我らZクラスこそは、真理の執行を〝天命〟とする者なのでつかまつる」
〔常識も秩序も捨てて、本物の外道に落ちたか……!!〕
黒い竜の首が怒りと……恐怖に声を震わせる。が、津流城は
「落ちたに
主君の
「元来、某が秩序の守護者たらんとしたのは、只一人の掛け替えの無い
〝掛け替えの無い
「なれば世界や秩序を守護しようと、その世界に掛け替えの無い
「されば某が真に守護すべきは秩序にも世界にも
「
新たな信念と大いなる覚悟を胸に燃え上がらせ、少年は1人の〝
〔…………………………………………〕
片や〝漢〟の信念と覚悟に圧倒されるように、見渡す限りの水面にそそり立つ無数の黒い竜の首は固まってしまう……が、ほどなく
〔……妹への引け目は……劣等感は、無くなったのか……?〕
「……
かすかに
「なれど、左様な〝引け目〟も己の一部と受け入れると思い定めたのでつかまつる。
長い夜を抜けたように
「〝引け目〟とは〝
〔劣等感は……
呆気に取られる無数の黒い竜の首に、津流城は重々しくうなずき、
「左様、某が妹に
一片の迷いも無く堂々と、
「未熟なればこそ、目指す理想があればこそ、某は一層の精進を
覇気に満ちる〝傑物〟に黒い竜の首が茫然となる………が、
〔……ふ……ははははははははははははははははははははははははははははっ!!〕
見渡す限りの黒い水面で、無数の黒い竜の首が一斉に笑い、
〔……南米で、俺の複製体に言ってたな〕
やがて、黒い竜の首も清々しい声で、
〔人は誰かのためにこそ、大業を成せるんだと……〕
「
覇気と強大な重圧を全身から放ちつつ、
「掛け替えの無い
揺るがぬ信念を
〔本気で、たった1人の女のために世界を作り直すのか? 本当に、そんなことが出来ると思ってるのか?〕
「
死ぬのではなく、生きて望みを叶えるという不動の
〔……それが、お前の選択か………〕
対して無数の黒い竜の首は一斉にうなずき、
〔大したもんだな。あんまりにも
〔俺なんて、いつも間違った……最悪の選択をして……このザマだからな………〕
どこか憧れるように
〔だったら、その覚悟を見せてもらおうかああああああああああああああああ!!〕
見渡す限りの水面に立つ無数の黒い竜の首が、水柱の上の紫の竜とその背の少年に一斉に襲いかかる──が、少年の刀の刀身が真紅に輝き、
〔ぐあっ!?〕
少年が刀を振るうや刃が届いていないのに、真っ先に紫の竜に達しようとした黒い竜の首が数十本、脱力して黒い水面に落ちた。
〔なんだと……ぐおっ!?〕
無事な黒い竜の首が動揺する間にも少年は刀を振るい続け、
「
〔くっ、相手の魂だけを斬る技か……だが! 所詮は多勢に
千を超える首を倒したものの、見渡す限りの黒い水面には未だ万を超える黒い竜の首がそそり立ち、
〔お前の覚悟はこんなもんかああああああああああああああああああっ!!〕
それらの首が再び紫の竜と少年に襲いかかる!!
〔ぐふっ!?〕
だが黒かった水面が
〔こ…これは、まさか……!?〕
「はい。光による
〔く…くそおっ!!〕
動けない無数の黒い竜の首が一斉に火炎弾を吐いた──が、少年が刀から水流を放ち火炎弾を
「
瞳に強い覚悟を
「沙久夜様」
「承知しているのでございます、津流城さん」
少年の厳かな呼びかけに、少年を背に立たせる紫の竜が
「なれば太華琉殿、我が覚悟の
誕生した眩く輝く1本の刀を、津流城が握り大きく一振りする。
それは紫の刀身を
〔なにぃっ!?〕
輝いていた見渡す限りの水面が鏡のようになり、拘束された無数の竜の首を写し出す……と、
「古事記と日本書紀の原典の1つである〝ホツマツタエ〟なる書に
紫の竜も厳かな声で、
「国で暴動が起きた
鏡のような水面が荘厳で清らかな光を放ち出す。
「鏡が物を写す原理を御存知でございますか? それは光の反射なのでございます」
水柱の上の紫の竜が眼下からの光に照らされつつ、
「古来、〝
厳かな声を慈愛に満たし、
「この術こそは〝
「
紫の竜の背の少年はうなずくと、首に下げる
「〝天照大神〟と〝瀬織津〟には、〝ホツマツタエ〟を始め夫婦であるとする伝承もあるのでございますよ」
円形の紫の光が波紋のように見渡す限りの水面に広がる……と、
「なれば妻である〝瀬織津〟の光を……〝愛〟を受けた時──」
無数の黒い竜の首を縛っていた多数の光の輪が砕け、
「〝天岩戸〟は開き、夫である〝天照大神〟が顕現されるのでございます」
見渡す限りの輝く水面から、無数の巨大な光の柱が立ち昇る。
「これぞ我が覚悟の
光の柱はそれぞれ黒い竜の首を1本ずつ内包しており、
「『我が業』ではなく、『我らの業』なのでございますよ、津流城さん♪」
まずは水柱、次に黒い竜の首が無数そそり立った世界に、
「この業こそは、津流城さんと身共の初めての共同作業なのでございますから♡」
巨大な光の柱が無数そびえ立っている………そして、
「「〝
共同作業のごとく2人が声を重ねる──と、光の柱は目も
〔ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?〕
見渡す限りの輝く水面上で、無数の黒い竜の首が浄化されるように、己を包む光の柱に溶け込んで消えていく。
「終幕につかまつる、太華琉殿」
周囲に光の柱がそびえ立つ中、柱の中で消えていく竜の首に津流城が
「
津流城を背に立たせる紫の竜も、水柱の上から神妙な声をつむぐ……と、黒い竜の首は体と共に意識も消えゆく中、
〔……
「無論につかまつる」
遺言に応えるように誠実な声で、
「沙久夜様こそは、某の生涯の恩人であり……生涯を共に歩む、掛け替えの無い
光の柱の中から息をのむ気配がして……
〔……勝手に、しやがれ………〕
あきれ果てたようで、どこか同情するような声をもらす……
〔後悔……するなよ……〕
自分も
〔あの世から、見てるぞ……お前の選んだ、道の果てを……〕
あの時ああすれば良かった、この時こうすれば良かったと、いつも胸の奥を後悔に締め付けられていた……
〔
今のままなら、
〔悔しかったら……〝
だが……他人に翻弄されようと、それが自分の望む道だったなら……
〔〝英雄〟と、〝悪魔〟……どちらの道を、選んでも……〕
それが……〝
〔命を、
後悔しない……幸せな人生になるのだろうか……
〔世界を、生まれ変わらせて……道を……希望を、かなえるために……〕
自分も生まれ変われるなら……後悔しない……希望のままの道を進みたい……
〔忠告は、したからな……〕
〝事実〟を知らせないのは……せめてもの
〔あとは……
せめてもの、声援であり……
〔破壊でも……創造でも……〕
自分が得られなかった
〔それとも……まずは、
胸のすくような清々しい声がして……
〔これが………俺の
太華琉が消え去る寸前、無数の光の柱から、紫の光が紫の竜へ放たれた………
おそらくは、彼の平穏な世界征服 @0713
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