第22話 炎の想い 其ノ一

〝彼〟は私の、初めての〝恩人ひと〟になった。


 薄暗い洞窟と、深く冷たい水たまり……それが私の〝世界〟だった。


 深い洞窟の奥で、私は水たまりにかって生きていた。

 1本の白い棒だけが、水たまりに浮かんで共にあった。

 太い木の格子こうしが、目の前に立っていても何ら疑問を感じなかった。


 それが〝当たり前〟だったから。

 物心ついた時から、それ以外の〝世界〟を知らなかったから。


 あとから知ったことだが、私は7年の間、水牢みずたまりかっていたらしい。


 そして7年目のある日、薄暗い洞窟の中に〝光〟がした。


 幼い少年の姿をした〝光〟は、私を新しい〝世界〟へ連れ出してくれた。

 薄暗く冷たい〝世界〟とは違う、明るく暖かい〝世界〟へ。


 それまで何も感じず、何も考えなかった心に、熱い炎がともった。

 胸の奥をがすような、熱く切ない炎が。

 生涯消えることの無い、灼熱しゃくねつの炎が。


 そうして少年の姿をした〝光〟は……〝彼〟は、私の初めての〝恩人ひと〟になった。



 それが私の、物心ついた時から6歳までの生涯だった………




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