第2話 思い出の、かけらの中で

 その日、私は新しい弟に出逢いました。


 魂のない抜けがらのような私の前には、黒髪の幼子おさなごが1人。

 まだ2歳だったその子は、よちよち歩きでゆっくりと私に近づいてきました。


 あどけない瞳を、無邪気な好奇心で揺らしながら。


 ほどなく私にたどりついた彼は、倒れかかるように私に抱きつきました。

 そして肩にとどく程度だった私の髪を、ぺたぺたとさわりました。


 あどけない顔を、無邪気な笑みで輝かせながら。


 トクン……


 のちに彼は、私の髪を太陽のように綺麗だと言ってくれました。

 でも私にとっては、彼の笑顔こそが太陽でした。

 暗闇に沈む私の心を照らしてくれた、まばゆいばかりの太陽でした。


 トクン……トクン……トクン………


 気がつくと、

 抜けがらだったはずの私は、かすかな胸の高鳴りを感じながら考えていました。


 私が髪をのばせば、

 この髪がもっといっぱいになれば、

 この子ももっといっぱいの笑顔で、私を照らしてくれるのかな、と………


 その日、私は新しい、そして世界で一番まぶしい弟と出逢いました。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る