藍のない街角

エリー.ファー

藍のない街角

 幽霊になっても。

 私がここで幽霊になって待ってても。

 ここで待ち続けていることに引かずに会いに来てくれますか。

 私がここで死んでしまった記憶と同居していたとしても。

 貴方は私のことを愛して会いに来てくれますか。

 本当ですか。

 信じてもいいですか。

 信じたいと思っている私を馬鹿にしている訳ではないんですよね。貴方のことが大好きなのに、どんどんと、離れている気がするのはなぜですか。

 私のせいですか。貴方のせいですか。私とあなたのせいですか。


 僕は自分の家のトイレの天井にそんな言葉を見つける。

 赤い字だった。

 血かもしれない。

 僕はただうんこをしに来ただけなのに、びびって、おしっこをじょばじょばと漏らした。

 本当に。

 お尻を出していて良かったと思った。

 僕の家はかなりぼろい。

 雨漏りもするし、ネズミもよく見る。何故かゴキブリはみない。たぶん、ゴキブリもつまみ食いできるくらいの残飯もないことを知っているのだろう。

 こんなにも悲しいことがあるだろうか。

 割と金持ちだった僕の家が没落したのは、僕が生まれる前。らしい。

 だから、そもそも金持ちの家に生まれる可能性があったのかすら分からない。

 お父さんとお母さんがそう言っている、というだけに過ぎない、というのがどうにも僕が得られる情報の限界だ。

 貧乏家族の住む家に地縛霊でいた、というのが結論でいいのではないだろうか。とうとう、何もないこの家の資産に地縛霊を入れるしかないほど切羽詰まってきた。生き物ではないのだとは思うけれど、どうにか売れないだろうか。そんなことを思った。

 テレビの心霊特集やユーチューバーあたりが喜んで企画を持ってきてくれそうなのだから、捕まえたいという思いはあるし、できれば、自分から企画を立ち上げて、コンテンツとして絞れるだけ絞っておきたい。

 ハゲタカのように捕まえて使いつぶしたい。


 愛に飢えた子供時代を過ごした私のことなど。

 貴方は何も知らない。

 けれど、それでもいいの。

 貴方はそうやって私のことをぞんざいに扱うことくらいしか脳がない。

 その雑な考えの一つ一つが私を生き生きさせてくれる。

 嬉しい。

 あぁ、嬉しい。

 本当に、いつまでもいつまでも貴方と一緒にいられる、そんな夢の中にいたい。

 あぁ、嬉しい。

 子供ができたの、本当よ。

 男の子なの、その子と貴方と一緒に生きていく夢を見ているの、それが嬉しくて嬉しくて仕方ないの。だって、目も耳の形も、神の色だって、貴方にそっくり、肌の色だってそう。

 私に似ている所なんて、一つもないわ。

 だって。

 この子。

 貴方が孕ませた別の女が産んだ子だから。


 僕は興奮していた。

 この血文字次から次へと出てくるが、結構面白いぞ。

 内容もさることながら、血文字というのと連動している雰囲気すらある。

 子、という字の時は特に、血のにじみ方が強いし、画数の多い漢字が出てくるときは、血のにじみ方を弱くしている。

 分かっているのだろう。

 読み手側がどのような感想を持つか。

 所々無理のない範囲で、このように読んで欲しいという明確なサインが出ているような気がする。

 僕はもう、読んでいるのではない。

 この魅力的な文章を読まされていた。


 読んでくれてありがとう。


 僕は新たな血文字を見て思う。

 そういうのはいらないんだよ分かってねぇなぁ、こいつ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

藍のない街角 エリー.ファー @eri-far-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ